「……若い先生なんだね」
理緒と2人になった病室で、私はぽつりと呟いた。

理緒は小さく肩をすくめて笑う。
「うん。確か29歳とか言ってたかな。でも優秀な人らしいよ。看護師さんとかがそう言ってた」

「へぇ……」
頭の中で白衣姿を思い出す。あの無駄のない仕草、冷たい視線。どこか大人びすぎていて、私には近寄りがたい人だった。

「なかなかイケメンじゃない?」
理緒は少し茶化すように声を弾ませる。
「でも、ちょっと逆にやりにくいんだよね。変に緊張する」

「……やっぱりそうなんだ」
胸の奥に自分でもよくわからないざわめきが広がる。

理緒は続ける。
「こないだもさー、ちょっと雑談で漫画の話とかジャブ打ってみたけど、すごく興味なさそうに返されちゃった」
思い出したように唇を尖らせて、苦笑する。
「真面目すぎるっていうのかな。壁があるんだよね」

私は曖昧に頷きながら、さっきの冷たい印象と、ほんの一瞬だけ見えた柔らかい笑顔を思い出していた。

……理緒と会話を交わしながらも,胸の奥に残った熱はいつまでも消えることはなかった。