コンビニを出ると、廊下の照明が少し落とされていた。
夜勤の時間帯に入っていて、静けさが増している。

「……こっちだ」
日向さんが歩き出す。
背の高い白衣の後ろ姿を追いながら、
自分がどこに向かっているのか、少し現実味がなかった。

職員専用と書かれたドアの前で、彼が立ち止まる。
カードキーをかざして、電子ロックの音がした。

「ここ、使っていい。
 タオルとドライヤーは中にあるから」

「……ありがとうございます」

「服、濡れてるだろ。体冷やすと本当に風邪ひく。
……待ってるから、急がなくていい。ゆっくり温めて」

それだけ言って、視線を逸らした。
本当に、目を合わせないようにしているのがわかる。
(……気を遣ってるんだ。……距離を取ろうとしてる)

それが分かるのに、胸の奥が少しだけ痛くなった。

彼がそのまま廊下の反対側へ歩き出す。
その足音が遠ざかっていくのを聞きながら、
私は静かにドアを押し開けた。

中には白いタイルと、
シャワーの音が小さく反響する空間。

蒸気の匂いの中で、制服を脱いでいく。
濡れた布の冷たさが肌に張りついて、
そこに残る“誰かの手の温もり”を無理に思い出させた。

――さっきの傘の下、
日向さんの肩に少し触れていたのを、
私はたぶん忘れられない。