「……はい、終わり」
御崎先生が器具を外し、そっと確認するように理緒の顔を覗き込む。
理緒は少し頬を膨らませて、酸素マスクを指で押さえた。
「ねぇ、これやっぱりやだ。苦しいときは楽になるけど……声、こもっちゃうし、友達とも話せなくなるし」
彼は眉をわずかにひそめ、低い声で即答する。
「我慢して。……それが一番、身体にはいい」
「んー……分かってるけどさ」
理緒がふてくされたように目を逸らすと、御崎先生は小さくため息をつき、すぐに表情を整えた。
「ーーじゃあ、行くよ」
カルテを持ち直しながら告げる。
「面会時間、21時までだから。それだけ注意して。無理はさせないように」
「はい」
反射的に返事をした私に、理緒がにっこりと笑いかける。
「やーっと桜と話せる」
私はうなずきながらも、目の端で白衣の背中を見送った。
さっきまで冷たく見えたその姿が、不思議と頼もしさに変わって胸に残った。


