カフェを出ると、
渋谷の街はちょうど夕方の混み始める時間だった。
行き交う人の波、交差点の信号の音。
ビルの間に沈んでいく夕陽が、
空をゆっくりと茜色に染めていた。

理緒は少し眩しそうに空を見上げて、
「夕焼けって、なんか不思議だよね」
と小さく呟いた。

「……うん。綺麗だね」

並んで歩きながら、
私は何となくその横顔を盗み見た。
少し頬がこけて、
それでも笑っている彼女の表情が
どうしようもなく心に焼きつく。

信号が青に変わり、人の波が動く。
その中で理緒が、
ふいに立ち止まった。

「……ごめん、ちょっと待って。息が……」

その声に、私は振り返る。
理緒は笑っていた。
でも、その笑顔はどこか苦しそうで。

「……大丈夫?」

「うん、大丈夫。先行って」

「やだ、行かない」
思わず言葉が強くなる。

理緒は、そんな私を見てまた笑った。
「桜って、ほんと優しいよね」

その一言が、
なぜかひどく悲しかった。

人の流れの中、
立ち止まっているのは私たちだけだった。

胸の奥に何かがせり上がってくる。
でも、それが涙だと気づくのに、
少し時間がかかった。