その数分後。

理緒が突然、胸を押さえて苦しそうに咳き込み、酸素マスクをずらしてしまった。

「り、理緒……!」
私は慌てて身を乗り出したけれど、どうすればいいのか分からず固まってしまう。

その横で、彼は迷いなく手を伸ばした。
「大丈夫。深呼吸して。ほら、ゆっくり」

低く落ち着いた声が病室に響く。さっきまでの冷たい無表情はどこにもなかった。
ずれたマスクを直し、理緒の小さな手を包み込むように支えながら、ほんの少し口元を緩める。

「そう……いい子だ。そのまま。大丈夫だから」

理緒が次第に呼吸を整えていくのを見届けると、彼は微かに笑った。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
ーーさっきまで冷たいと思った人が、こんなふうに優しく笑うなんて。

まるで別人のようなその表情に、言葉を失った。


……その柔らかな笑顔が、しばらく胸に焼きついて離れなかった。