少しだけ、嫌な想像をした。

私は、理緒の病状を何も知らない。
……聞きたかった。けれど、聞くのが怖かった。
だからいつまで経っても、聞けなかった。

「理緒。これ……ほら、大学のパンフレット。
 経済学部とか、哲学科とか……理緒が興味ありそうだなって思って」

言いながら、心臓が少しだけ速くなる。
軽い話題のはずなのに、なぜか言葉が重い。

理緒は、ゆっくりと顔を上げて笑った。
「ありがとう。えー、嬉しいな」

笑顔はいつも通りだった。
……それでも、どこか違って見えた。

――さっきの、日向さんの表情。
“そんな未来、存在すると思ってるのか”
……そう言いたげじゃなかったか。

目を逸らしながら、強く言い聞かせる。
(そんなわけない。そんなわけ、ない。)

けれど、入院してからの理緒は――
見るたびに少しずつ痩せていくように見えていた。
皮膚の下の血管が細く浮き出て、笑うたびに息が苦しそうで。

「一緒の大学、行けたらいいよね?」
確認するように言って、理緒の顔を覗き込んだ瞬間――

息が止まった。

「……理緒? 顔……真っ青だよ……?」


……瞬間、理緒の顔が苦痛に歪み始めるのがわかった。

胸の奥が一気に冷たくなる。
震える手で、ナースコールのボタンを探した。
それが、こんなにも遠い場所にあるなんて、思いもしなかった。

指がようやくそれを押し込んだ瞬間、
廊下にナースシューズの音が響き始めた。