……ちょうど東都心大のオープンキャンパスにも足を運んだ後、
理緒の病室に寄ろうとした時だった。

廊下の向こうに、カルテの束を抱えた日向さんの姿が見えた。
白衣の袖をまくった腕に、少しだけ汗が光っていた。

「中野さん。……今日は、夏休みなのに制服?」
「……あ、はい。オープンキャンパス行った帰りで」

「なるほど」
一瞬だけ笑ったように見えたけれど、
その目はどこか遠くを見ているようだった。

「じゃあ、持ってるのはパンフレット?」

「……はい。こっちは経済学部で、こっちは哲学科。
 理緒が気になってたって言ってたから……」

「……そうか」

一拍、沈黙が落ちる。
それだけのやり取りなのに、何か空気が少し変わった気がした。

ほんの一瞬、彼の表情が曇った。
でもすぐにいつもの柔らかな笑顔に戻る。

「偉いな。……ちゃんと、友達の分まで気にかけて」

その声に、どこかぎこちない響きが混じっていた。
気のせいかもしれない。
でも、どうしてだろう。

胸の奥が、少しだけ重たくなった。