約束通り、学校終わりに理緒の病室に顔を出した日だった。
「理緒ちゃんの友達? 初めまして。循環器内科医師、御崎日向です」
理緒の隣に立っていた目の前の男性はそう名乗りながらも、無表情を崩さなかった。冷えた水面のように澄んだ目をしていて、その態度はあまりに落ち着いていて近寄りがたい。
医者という肩書きからもっと年配を想像していたのに、思ったより若い。20代後半くらいだろうか。端正な顔立ちで、整いすぎている分、感情の揺らぎが読み取れず――能面のように見えてしまう。
理緒が「真面目すぎてとっつきにくい」と評していた意味がすぐに分かった。
私はそもそも女子校育ちで、男の人とまともに話したことなんてほとんどない。胸の奥が緊張でいっぱいになる。
「中野桜、です。よろしくお願いします」
声が震えるのをごまかせなくて、うまく目も合わせられないまま頭を下げるのが精一杯だった。
「……邪魔だよね。酸素投与が終わったら、すぐ退くから。あと五分だけ、待ってて」
淡々とした声が、白い病室に静かに落ちた。


