やがて病院の職員駐車場から、黒い車に乗り込むと、彼がハンドルを握りながら口を開いた。

「家はどこ?」

「……あ、市ヶ谷です」

「市ヶ谷。了解。……10分ほどで着くかな」

エンジン音とともに車が動き出す。
シートに背中を預けると、思ったより柔らかくて、胸が妙に落ち着かない。

走り出した車内には、日向さんの趣味なのか、心地よいクラシックが流れていた。
雨粒を叩く音と重なって、妙に静かで特別な空間に感じられる。

私は窓の外に視線を向けながらも、隣にいる彼の存在を意識しすぎて、鼓動が速くなるのを止められなかった。