全然……俺は、あの時憧れた“医師”という職業になりきれてない。
高校の頃に思い描いていたのは、人の痛みに寄り添って、命に手を伸ばす医者だった。
白衣を着て、患者に「大丈夫ですよ」と言って、安心させる存在になれるんだって。
でも現実はどうだ。
論文を書け、業績を積め、教授に逆らうな。
目の前の患者の苦しみより、次の学会発表のネタの方が優先されることすらある。
「助教に昇進させてやる」なんて言われても、ただ都合よく駒にされてるだけだ。
誇らしさより、むしろ自分が空っぽになっていく感覚の方が強い。
……俺は本当に、医師なのか。
それともただの、組織に飼われた研究者か。
こんなはずじゃなかったのに。


