梅雨の、雨が降る午後だった。

「でもさぁ、日向先生も誠実ぶってはいるけど、実際ちょっとは女遊びしたことあるでしょ? お医者さんってだけでモテそうだし」

突然、理緒がそんなふうに日向さんをからかうのを聞いて、私は思わず息を呑んだ。
どうしてそんなことを先生に言えるんだろう。私なら恥ずかしくて口に出すことすらできないのに。

「……あのなぁ……」
日向さんは少し眉をひそめ、苦々しげにため息をついた。
「そういうのはしてない」

けれど理緒は引き下がらない。唇の端を上げて、さらに言葉を重ねる。
「へぇ? もしかして逆にクリスチャンだからって、童貞貫いてるパターン?」

「理緒っ……ちょっと!」
反射的に声が出てしまった。顔が一気に熱くなる。
そんなこと、女の子の口から簡単に言っていいものなの?

「……もういい」
日向さんは視線を逸らし、低く吐き捨てるように言った。
「お前らにはそもそも関係ないだろうが。俺が遊んでいようと、童貞貫いていようと」

その言葉に、胸の奥が妙にざわつく。
理緒は冗談めかして肩をすくめただけだったけれど、私は鼓動の速さを隠すことができなかった。
(……考えたこともなかったのに。どうして、こんなに意識してしまうんだろう)