「あの子ってそういう話に付き合ってくれるタイプなのか?」
問いかけると、理緒はけろりとした顔で笑った。

「あの子って桜? するわけないじゃん。あの子、哲学とか経済とか、聞いたら絶対寝ちゃうよ」

「……だろうな」
思わず苦笑が漏れる。


理緒は少し目を細めて笑った。
「桜はね、高校生らしいんだよ。『アルジャーノンに花束を』で感動して泣いてるタイプ。私が重い顔して本読みふけってる横で、真っ直ぐにそういう話をしてくれる」

「……なるほど」
俺は思わず相槌を打つ。


「でも、そういうのが桜のいいところだと思う。単純で、真っ直ぐで、私がぐちゃぐちゃ考えてる横で『理緒は元気になったら何したい?』って笑って聞いてくれるの。……そういう子」

理緒の声は穏やかだったけれど、その奥に微かな羨望のような色が混じっている気がして、俺は黙ってその横顔を見つめた。