御崎先生はカルテを机に置くと、理緒の脈を測りながら何気なく口を開いた。
「体調はどうだ」

「んー、悪くはないかな。少なくとも桜よりは元気だよ」
理緒はいたずらっぽく笑って答える。

「……比較対象がおかしい」
先生は眉をひそめ、淡々と返す。

「だってそうじゃない? この子、さっきから全然目を合わせないんだもん」
理緒が楽しそうにこちらをちらりと見てくる。

「……人見知りなんだろ」
御崎先生はそれだけ言って、再びカルテに視線を落とした。

二人だけでテンポよく会話が進んでいく。
私はそのやり取りを横で聞いているだけで、まるで空気みたいに存在が薄くなっていく気がした。

「……ちょっと、置いてかないでよ」
小さく口を尖らせると、理緒がすぐに笑いながら私の肩を軽く叩いた。
「ごめんごめん。桜が可愛いからつい弄りたくなるんだよ」

御崎先生は表情を変えず、ただ「……面会時間、もう少しだからな」と告げるだけだった。
それが余計に冷たく感じられて、胸の奥がきゅっと締め付けられた。