「……そっか」
胸の奥がふっと軽くなる。少しだけ安心して息をついたとき、理緒が茶化すように私を見た。
「ま、桜はまず目を合わせるところからだね」
「うぅ……分かってるけど……」
頬が熱くなるのを感じて、思わず俯いてしまう。理緒は楽しそうに笑っていた。
その瞬間。
「……何を話してるんだ?」
低い声が背後から響いてきて、心臓が跳ね上がった。
振り返ると、病室の入り口に御崎先生が立っていた。
カルテを抱え、無表情なその瞳がまっすぐこちらを見ている。
「あ、あの……な、なんでもないですっ……!」
情けないほど声が裏返った。
「そうそう。ただのガールズトークだよ」
理緒が慌てず笑って答える。
御崎先生は短く息を吐き、こちらに歩み寄る。
「……そうか」
その一言に、胸がぎゅっと縮む。
私は結局、目を合わせることができなくて、視線を落としたまま固まってしまった。
けれど、さっきよりも鼓動はずっと速くて――。
怖いのか、嬉しいのか、自分でも分からなかった。


