「牧師さんの息子らしいよ。日向先生。珍しいよね」
理緒が声を潜めるようにして、少し楽しそうに囁いた。

「……御崎先生、が?」
思わず聞き返す。想像もしていなかった言葉に、胸の奥がくすぐったくなる。

「そう。こないだちょっと世間話になってさ。やっぱり親も医者だったりするの?って聞いたら――違うって。まぁ“先生”って呼ばれる仕事はしてたけどな、って言ってた」

「へぇ……そうなんだ」
返事をしながらも、頭の中で「牧師」という響きがじんわり残る。
医者であり、牧師の息子であり。冷たいようでいて、時々ふと見せる優しさの理由が、少しだけ分かった気がした。

「でも……よかった」
私は胸の前で小さく手を握った。
「初め、とっつきにくいとか言ってた割に、理緒、ちゃんと話せてるんだね」

理緒は苦笑して肩をすくめる。
「まぁね。ああ見えて、不器用なだけだよ。話してみると分かる」