それは、高校2年に進級してすぐのことだった。
「えっ……理緒、また入院?」
放課後の帰り道。制服のポケットに手を突っ込んだまま、いつも通り他愛もない話をしていたのに――その言葉だけは、私の足を止めた。
「そうなの。……ごめんね。一週間後から」
理緒はいつもの調子で笑ってみせたけれど、その笑顔はどこか力の抜けたように見えた。
「新しい病院になるんだ。……今度は東都心大附属病院」
胸がざわめいた。
「やだよぉ……一緒に帰る子、いなくなるじゃん」
声が震えるのを、もう誤魔化せなかった。
「他の子と帰っていいんだよ。栞ちゃんとか、帰宅部だし桜と同じ市ヶ谷じゃない」
理緒は困ったように眉を下げて、それでも優しく笑った。
「理緒といるのが一番楽しいもん。……わたし」
ぽつりとこぼした言葉に、理緒は少しだけ目を見開いてから、また笑顔を取り戻す。
「ありがとう」
それだけを残して、前を向いた。
春の風に揺れる長い髪が、やけに遠く感じられた。


