中3に上がりクラス替えをした時、彼女を見つけた。どうしてこんなにも顔が可愛いくて、声も可愛くて優しそうな子を今まで認知していなかったのか不思議だった。サラサラの髪を高く結んだポニーテール、ぱっちりとした二重に発表した時に聞こえる可愛すぎる声。始業式の日に俺は一目惚れした。
 始業式から一ヶ月が経ち、中間テストはすでに終わった。今日は、待ちに待った席替えの日だった。席替えを楽しみにする理由は人によって違うと思う。回りが静かで授業中集中できるか、仲が良い子が近くにいるか、それとも少し苦手な子から離れられるかなど。でも大抵の中学3年生は“好きな人と近くになれるか”これだろう。もちろん俺もその内の一人だ。
 結果は斜め前のその前だった。ただ目で追うことしかできなかった。でもそれで良かったのかも知れない、だって隣になったからって喋れる訳でもない。お互い近くに友達がいなければ喋れるのかも知れない。けれどそんなことはまあほぼないだろう。
 席替えが終わり、休憩時間になった。学校ではあまり喋らないようにしている、唯一の女子友達の菜々香の所へ行った。中一からの付き合いで今でもたまに遊んだりしている。
「あっ、亮介。どうしたの?」
 ここは関西なのに相変わらず標準語。小学生になるまでは東京に住んでいたらしい。
「えーなんか席替えどうか聞こうと思ってー」
「そんなの見たら分かるでしょ?最悪だよ。一列目だし、廊下に近いし。階段から上がってきた人と一番に目が合うし」
 あはは確かに、と苦笑いをする。菜々香は廊下側の端っこで、一番前だった。
「逆に亮介どこだっけ?」
「あそこ、後ろから2番目で廊下から3列目。結構良いやろ?」
 自分の席を指差した。
「うわー羨ましいー。あ、詩央里ちゃん、今回離れちゃったのかー。」
 回りを見渡しながら菜々香はそう呟く。前回は隣で仲良くなったとか、なんだとか。詩央里...。ちょっとだけ胸がドキッとした。その人物こそが俺の気になる人だった。
「ふーん。じゃあまあ俺トイレ行ってくるわ」
「はーい」
 教室を静かに出た。詩央里の話を聞いていると自然と顔が赤くなるのが嫌だった。

 席替えをしてから、ずっと詩央里を目で追っている気がする。たまに自分がとてつもなく気持ち悪くなるけど止まらない。だって好きだから。プリントを後ろの子に配る時は、いつも目が合わないようにサッと目を逸らす、苦手な数学の授業中はどのくらいすぐ解けてるのか見てしまう。
 次の日の休憩時間、ロッカーへ教科書を直しに行く時に詩央里と菜々香の声が聞こえた。多分好きなアニメの話でもしてるんだろう。
 その姿を見て、なぜか胸がザワザワする。
 この気持ちは自分だけなのかも知れない。友達の友達を好きになるのはなぜか罪悪感があるこの気持ち。
 詩央里のことが好きって菜々香に言ったら、多分応援してくれると思う。
 でも勝手に、自分の気持ちにブレーキをかけてる。
 だけど、菜々香にその気持ちを伝えれない。

 今日はインスタで詩央里が、“君に聞きたいこと”という歌をノートで流していた。それを歌っているのは詩央里の好きなグループではなかった。
 もしかしたら好きな人がいるのかも知れない。それは自分じゃないのかな、と苦しい気持ちになる。でも逆に自分かも知れないと希望にもなる。それでもどうしたら良いのか分からない。

 まだ君への想いは停滞中、なんです。