光に照らされる窓際の横顔。


いつも無表情なのに笑うと目元にしわができるとこ。


授業中の無防備な寝顔。


風にふんわり浮く茶色の髪。


嫌いな道徳の授業も割とちゃんと受けてるとこ。


集中してる時のペン回し。


ちょっと音痴なとこ。


100点が取れなかった時の拗ねた顔。


ビー玉みたいに綺麗な瞳。


小さい子に泣かれると結構ショック受けるとこ。


全部、ぜーんぶ、好きです。


なによりも。








『……見つけた』










私を見つけてくれるとこ、大好き。





私、朝宮汐里には、大好きな人がいるのです。


隣の席の白川君です。


今授業中ですが、白川君は寝ています。


当たり前ですが、先生に怒られます。


そのときの白川君の顔!


「……っ……」


可愛すぎて撃ち抜かれました。


もう一回頭の中でリピート再生。





『おい白川!起きろ!』


白川君が顔を上げます。


ここ!


この瞬間!


『あは、すいませんセンセー』





ぐっっっっはぁ!


ちょっと待って一時停止!


何ですかその、ちょっとぺろって舌出すとこ!


いたずらっ子みたいな笑み、好きー!


尊い!


まだありますよ、白川君の尊いポイント!


再生!





笑いながら先生に謝る白川君。


もうここで鼻血が出るほどかわいいのですが。


そのあと、白川君が頭をかいたのです!


くしゃくしゃと髪を崩すようにかきます。


ぐはっっっっ!


一時停止―――!





何だそれ何だそれ。


可愛い、かっこいい、尊い。


大好き―――!





「……い、おい!お前もか、朝宮!」


そのバカでかい声に私の思考がぷつっと切れる。


あれ?


私、今名前呼ばれた?


呼ばれたよね絶対。


あれっ?


クラス中の視線が刺さってるのは感じてるんですけど。


誰か、今どういう状況か教えて!?


と思った時、腕につんつんと誰かの指が。


「③の問題。連立のとこ」


彼がページの端らへんを指さして言う。


「へっ……?」


ししししししっし白川君!?


やばい本当に鼻血出ちゃう。


間近で見ると一層美しい。


いや違うだろ!


自分で自分に突っ込む。


今、私、多分ピンチだ!


もしかして白川君は、先生が言ってる問題を教えてくれたのかな。


優しい!イケメン!


違うだろそうじゃないって。


どうしよう。


私、数学、びっくりするほどできないんだよね。


連立とかもってのほか。


マイナスとプラスの違いも分かんない。


どうしよう。


「朝宮、答えられないのか!?」


先生が本気でびっくりした顔で言う。


確かに、基本問題の一番簡単なやつだ。


なのにできないなんて。


周りの子たちがくすくす笑う。


「え……っと……」


何か答えなきゃ、と思うけれど、どうしたらいいかわからない。


頭がパニック状態だ。


「その、それはですね……」


こんなんで時間稼ぎしても意味ないのに!


まずは解かなきゃ。


でもシャーペンを持つ手が震えて書けない。


「朝宮」


耳元で、小さくつぶやかれた声。


知ってる。


白川君の声。


頭の中で毎日リピート再生している声だから、覚えてる。


低くて落ち着いた声。


「白川君……?」


「まず、この式をこっちの式に代入して」


「え……あ、うん」


言われたとおりに代入する。


「それから、左辺にXが付いてるやつを持ってきて」


「できた」


「あとはそのXの値を求めるだけ」


わあ。


びっくりするほど簡単にできちゃった。


「X=-3、y=6です!」


先生はやれやれというような顔をしながら、


「まあ、正解だ。これからはちゃんと授業聞いておくように」


と言ってくれた。


よかった、助かった。


隣の席の白川君に小さく声をかける。


「白川君、ありがとう」


白川君は私よりもっと小さな声で言った。


「……いいよ」


ぎゃああああ!


可愛すぎてキュン死しちゃう。


心臓!


私の心臓どっか行った?


ちょっと赤くなってたよね?


白川君、耳赤くなるタイプだからなあ。


何にせよ可愛すぎる!


とにかく待って、リピート再生っ!!


「……や、朝宮!」


「ふぇ?」


あれ私、また名前呼ばれた?


目の前にはすごく怒った顔をした先生の顔が。


あ、これ、やっちゃった感じかな?


「授業に集中しろ!」


「……はい……」


正論すぎて何も言えない。


しゅん、と肩を落とすと隣からくすくすと聞こえてきた。


「わ……」


どうしよう、白川君が笑ってる。


めっちゃ可愛い。


何それ天使?


天使が舞い降りてきた感じかな?


白川君は私の視線に気が付いたのか、笑いをこらえながら、ノートに文字を書き始めた。





『朝宮、面白すぎな』





皆さん!


私、白川君に、『面白い』いただきましたっ!


世界中回って自慢したいよー!















……とまあ、こんな感じで私の世界は回っているのです。


私の世界は、『あの日』からずっと、白川君が中心。


白川君を軸にして回ってる。


でも。


ふと疑問に思うことがある。


白川君がいなくなったら、軸がなくなったら、私はどうなるんだろう。壊れてしまう気がする。


だからそれまでは。


この甘い世界を存分に楽しみたいと思う。




ノートに書かれた愛しい文字を見つめながら、そんなことを想う。


なんて幸せな、片想い。






「いやあ、汐里、また怒られてたねえ」


沙紀がにやにやしながら言ってくる。


事実だけどね!?事実だけど、沙紀に言われるとなんかムカッとするんだよなあ。


「だって!白川君が可愛すぎてかっこよすぎたんだもん!」


はっ。


つい思ったことを口にしてしまった。


沙紀の口角がもっとあがる。


「えー?また、愛しの白川君のこと、考えてたのー?」


くっ。


弱みを握られてしまった。


これはいっそのこと自白した方が!


「そっっっっ、そうだけどっ!」


「いいかげん告っちゃえば」


「なっ……!」


沙紀ったら、とんでもないことをさらって言っちゃうんだから。


そんな勇気があればとっくにしてるってば!


沙紀は続ける。


「だってさあ、一目ぼれで、それからずっと好きなんでしょ?そんな変態みたいな目してさ。こりゃもう告るしかないっしょ」


一目ぼれ……か。


まあ、本当は違うけど、そういうことにしておこう。


にしても変態って。


「……無理だよ!だってほら、私、沙紀みたいに顔が可愛いわけでもないし」


沙紀はとっても整った顔立ちをしていて、でもそれを鼻にかけないでサバサバしているので、男子からも女子からも人気が高い。


こんな私と友達になってくれたことが、そもそも奇跡のようなものなのだ。


私とは大違い。


「まあ、確かにね」


いやっ、フォローしないんかいっ!


「でもさ、」


沙紀は、前髪をくるくるしながら続ける。


その姿ですらも可愛い。


「私、汐里ほど白川君のこと好きな人、みたことないよ?」


え。


いや、それは、当たり前じゃん?


世界で一番白川君のこと愛している自信、ありますけど?


「うん、そうだろうね」


「でしょ?例えば、白川君のいいところ言って、って言ったら?」


「えーーーー!たくさんありすぎて迷っちゃう。
優しいところ。かっこいいところ。髪がふわふわなところ。ちょっと色素が薄い目。真っ直ぐに通った鼻筋。形のいい唇に、長いまつげ。人類最強レベルで美しくてかっこよくてかわいくない?授業中に寝ちゃうとこ。運動出来るとこ。絵が下手なとこ。音痴なとこ。だれからも好かれてるとこ。やるときはちゃんとやること。けっこう自由人なとこ。子供が好きなとこ。調理実習で大失敗してショック受けてるとこ。方向音痴なとこ。字が綺麗なとこ、」


「あーーーーー。もういいわ」


沙紀が心底めんどくさそうな顔で言うので、ついツッコんでしまう。


「おい」


「まあとりあえず、そんなに好きなら告るべきじゃん?って話」


そうおもう。


けど、できない。


「だってさ。……もしフラれたら、壊れちゃうじゃん?」


沙紀が怪訝そうな顔で問う。


「なにが?」


「私の、綺麗な綺麗な、片想いの世界が」