四月の始業式。
クラス替え初日、僕――篠原悠(しのはらゆう)は、ふつうに「空気みたいな存在」でいる予定だった。
目立たない。余計な発言はしない。静かに一年を過ごす。
……はずだった。
「今日からこのクラスに入ることになりました、橘(たちばな)ひよりです。よろしくお願いします」
教壇に立った転校生の自己紹介に、教室の空気が一瞬止まった。
茶色がかって光る長い髪、ぱっちりした目。どこか芸能人っぽいオーラをまとっている。
男子はざわつき、女子でさえ「きれい……」と声を漏らしている。
そして、担任の一言。
「橘は篠原の隣の席な」
……なんで僕の隣なんだ。
静かに一年を過ごす計画、さっそく破綻。
昼休み。
橘さんは、女子たちに囲まれて質問攻めにあっていた。
「どこから来たの?」「部活とか入るの?」
でも彼女は笑顔を浮かべつつ、決まってこう答える。
「えっと……ふつうです。ぜんぶふつうです」
……なんだその答え。
授業が終わり、放課後。僕がカバンを持って立ち上がると、橘さんがすっと近づいてきた。
「篠原くん、ちょっといい?」
教室のざわめきが一気に濃くなる。
僕は嫌な予感しかしないまま、廊下に連れ出された。
「さっきは、助かった」
「……え?」
橘さんは、辺りを見回してから声を潜めた。
「実は、私……来月からデビュー予定のアイドルなの。だから学校では絶対バレたくないの。ね、お願い、秘密にして」
え、えええ!?
クラス替え初日、僕――篠原悠(しのはらゆう)は、ふつうに「空気みたいな存在」でいる予定だった。
目立たない。余計な発言はしない。静かに一年を過ごす。
……はずだった。
「今日からこのクラスに入ることになりました、橘(たちばな)ひよりです。よろしくお願いします」
教壇に立った転校生の自己紹介に、教室の空気が一瞬止まった。
茶色がかって光る長い髪、ぱっちりした目。どこか芸能人っぽいオーラをまとっている。
男子はざわつき、女子でさえ「きれい……」と声を漏らしている。
そして、担任の一言。
「橘は篠原の隣の席な」
……なんで僕の隣なんだ。
静かに一年を過ごす計画、さっそく破綻。
昼休み。
橘さんは、女子たちに囲まれて質問攻めにあっていた。
「どこから来たの?」「部活とか入るの?」
でも彼女は笑顔を浮かべつつ、決まってこう答える。
「えっと……ふつうです。ぜんぶふつうです」
……なんだその答え。
授業が終わり、放課後。僕がカバンを持って立ち上がると、橘さんがすっと近づいてきた。
「篠原くん、ちょっといい?」
教室のざわめきが一気に濃くなる。
僕は嫌な予感しかしないまま、廊下に連れ出された。
「さっきは、助かった」
「……え?」
橘さんは、辺りを見回してから声を潜めた。
「実は、私……来月からデビュー予定のアイドルなの。だから学校では絶対バレたくないの。ね、お願い、秘密にして」
え、えええ!?
