2人分の恋

ひよりに言われた言葉が、ずっと頭の中でぐるぐる回っていた。

「そろそろ、自分の気持ちに向き合いなよ」

——向き合った。

律のこと、好きだったって気づいた。 でも、それを“伝える”勇気は、まだなかった。

告白なんて、無理。 もし、気まずくなったら? もし、ひよりまで巻き込んでしまったら?

美羽もいるし、怖かった。

だから、私は何もできなかった。

その間に——美羽は、次の一手を打とうとしていた。

昇降口で、スマホを見ながら誰かと話している美羽の姿を、ひよりは見ていた。

その笑い方は、いつもの“表の顔”じゃなかった。


昇降口の隅、美羽はスマホを見ながら、数人の女子と笑っていた。

「これ、見て。花音が律に“話しかけないで!”って叫んでるとこ。 めっちゃ面白くない?めっちゃ酷いと思わなーい??」

その動画は、教室で誰かがこっそり撮っていたものだった。

その“切り取られた一瞬”だけが、スマホの画面に残っていた。

ひよりは、その会話を聞いていた。

背筋が冷えた。

すぐにスマホを取り出し、律にLINEを送る。

「美羽、花音の動画を広めようとしてる。 “話しかけないで”って言ったとこ。 誰かが撮ってたみたい」

既読がつくのは一瞬だった。

「俺、止める。今から行く」

律は、テニス部の練習を抜けて、昇降口に向かった。

走りながら、心臓がうるさかった。

怒りと焦りと、守りたい気持ちが混ざっていた。

昇降口に着くと、ひよりがすでに美羽の前に立っていた。

「それ、やめなよ。 人の一瞬を切り取って笑うの、最低だよ」

美羽は、笑った。

「あ、律くん!花音ちゃんにあんなこと言われてかわいそー私ならそんなこと言わないのに。」

「しらばっくれんな。お前が原因だろ。」

「、、、。で、でも、本人が叫んでるんだから、別によくない?」

「よくない。花音は、あんたに向けて言ったんじゃない。 律にだよ。しかも、あんな状況で」

「でも、面白いじゃん。拡散したら、もっと騒ぎになるし」

その瞬間、律が声を上げた。

「やめろよ、美羽」

美羽が振り返る。

律の目は、真っ直ぐだった。

「花音を傷つけるの、もうやめてくれ。 俺の気持ちなんて、お前に関係ないだろ」

美羽は、少しだけ顔を歪めた。

「……それは律が、花音ばっか見てるからじゃん。なんで花音なんかが……!」

その声は、聞いたことのない弱弱しい声だった。

律は、何も言わなかった。

そしてひよりは、静かに言った。

「好きなら、ちゃんと伝えればよかったのに。 いじめるんじゃなくて」

その声を聴いて美羽は泣きながら駆け出した。

ひよりが止めたけれど、美羽は振り返らなかった。

律は、深く息を吐いた。

「……俺、花音に伝えなきゃ」

ひよりは、うなずいた。

「うん。今度こそ、ちゃんと。がんばって。」

律は駆け出した。

ひよりは「いいな、、私もそういう彼氏ほしいなー」と、つぶやきながら微笑んで、教室に戻った。