律が帰ったあと、私はずっと考えていた。

あんなふうに話すのは、久しぶりだった。

律の声は、昔と変わらず優しくて、でも少しだけ大人びていた。

「今度は、ちゃんと聞くから」

その言葉が、ずっと頭の中で残っている。

——ほんとは、話しかけてほしかった。 ——でも、怖かった。 ——誰かが傷つくのが、何より怖かった。

スマホが震えた。ひよりからだった。

「明日、ちょっとだけ話そー」


昼休み。

ひよりは、何も言わずに私の隣に座った。 しばらく沈黙が続いて、それから、ぽつりと聞いてきた。

「律、来たんでしょ?」

「……うん。部屋に」

「話した?」

「……うん。少しだけ」

「で、どうだったの?」

私は、言葉を探した。 でも、うまく出てこなかった。

「……律は、優しかった。 でも、私……まだ、どうしたらいいかわかんない。」

ひよりは、私の顔を見て、はっきり言った。

「そろそろ、自分の気持ちに向き合いなよ」

私は、目を丸くした。

「律のこと、どう思ってるのか。 怖いとか、迷惑かけたくないとか、そういうのじゃなくて—— “自分がどうしたいか”で、決めなよ。きっと、律は、迷惑なんて思ってないよ。むしろ、もっと頼ってみなよ。」

その言葉は、まっすぐだった。 ひよりらしい、強くて優しい言葉だった。

私は、しばらく黙っていた。その目は、少しだけ揺れていた。

「……私、律のこと、好きだったと思う。 でも、誰かに言われるまで、自分でも気づいてなかった」

ひよりは、ふっと笑った。

「やっぱり、花音、恋愛には鈍感なんだから。気づいてよかったじゃん。 あとは、どうするかだけだよ」

私は、空を見上げた。