城崎花音は、隣の家の幼馴染。

小さい頃は、毎日一緒に遊んでた。

公園で鬼ごっこして、夏祭りでは手をつないで歩いて、 冬には、2人で雪だるまを作った。

花音は、俺にとって“当たり前に隣にいる存在”だった。

でも——中学に入ってから、少しずつ変わっていった。

部活が始まって、俺はテニス部に入った。

花音は、女子のグループで過ごすことが多くなって、 気づけば、2人で話す時間なんて、ほとんどなくなっていた。

「花音、今日プリント出した?」

「うん、出したよ」

そんな会話しかできないのが、正直ちょっと寂しかった。

俺は、ずっと前から花音のことが好きだった。

でも、きっと花音は俺を“家族”みたいに思ってる。 それがわかってるから、気持ちはずっと隠してきた。

——でも、昨日のあれは、さすがに黙っていられなかった。

教室に戻ったら、花音が藤堂美羽に囲まれてた。

美羽は、俺にやたら話しかけてくる女子。

その美羽が、花音に何か言ってるのを見て、 気づいたら、体が勝手に動いてた。

「おい、何してんだよ」

俺の声に、花音がびくっとした。

美羽たちは、気まずそうに教室を出ていった。

「……大丈夫?」

そう声をかけたとき、花音が俺を見上げた。

その目が、いつもよりちょっとだけ揺れていて、 惚れてしまう。

——もしかして、花音も気づき始めてる?

俺は、花音の隣にいることに慣れすぎて、 本当の気持ちを言えなくなってる。

もし、言える日が来たら、「俺、お前のこと、ずっと好きだったよ」って言おう。