「ねえ、花音。昨日の朝比奈くん、めっちゃかっこよくなかった?」

昼休み、教室の隅っこ。

向坂(さきさか)ひよりは、いつものようにテンション高めで話しかけてくる。

ひよりは親友で、恋愛の話が大好き。

「え、そうかな…」

私は、曖昧に笑ってごまかした。

でも、昨日のことが頭から離れない。

——教室で、美羽に言われたあの言葉。

——律が、私の前に立ってくれたこと。 ——「大丈夫?」って、優しく言ってくれたこと。

心臓が、まだちょっとだけドキドキしてる。

「花音ってさ、朝比奈くんのこと、どう思ってるの?」

「え?…幼馴染、かな」

「それだけ?」

「うん、たぶん…」

「ええ~これ絶対、恋じゃーん!!」

ひよりは、机に突っ伏して笑いながら騒ぐ。

私は、顔が熱くなるのを感じて、そっと窓の外を見た。

「でもさ、昔はもっと話してたよね?」

「うん。小学校の頃は、毎日一緒に帰ってたし…」

「それが今は、グループで動くようになって、ちょっと距離ある感じ?」

「そうかも」

「でも、昨日のあれはさ、完全に“守ってくれた男子”ってやつじゃん?」

「……そうなのかな」

「そうだよ!あれは、恋の始まりってやつ!」

ひよりの言葉が、冗談みたいで、でもちょっとだけ本気に聞こえた。

私は、胸の奥で静かに思った。

でも、“好き”なのかどうかは、まだわからない。

ただ、昨日の律は、 今まで見てきた“幼馴染”とは、ちょっと違って見えた。