廊下を歩いていたとき、私はふと前方に目をやった。

蒼太くんがいた。

資料らしきものを見ながら、真剣な顔で歩いている。

かっこいいなぁ……。

委員会をまじめにやってるし、しかも、めっちゃイケメン。

花音がよく「蒼太くん、頼りになるよ」って言ってるのも納得。

その瞬間。

蒼太くんが、資料に集中しすぎて、廊下の柱にゴンッとぶつかった。

「えっ……!」

思わず足が勝手に動いて、私は蒼太くんのもとへ駆け寄った。

「大丈夫!?、、、あ、これって委員会の資料?いつも花音が話してるやつだよね!」

ずっと話しかけたいと思ってたから、こんなチャンスがあるなんて、ラッキーすぎる。

しかも、夢中になりすぎてミスしちゃうなんて、ちょっとおっちょこちょいなところ……かわいい。

蒼太くんは、少し驚いたように私を見て、それからふっと笑った。

「ありがとう。花音ちゃんの友達の、ひよりちゃんだよね?」

名前、知っててくれたんだ……。

胸がドクンと鳴って、顔が熱くなるのを感じた。

「この資料、どこかに運ぶの?それなら、手伝うよ」

話すチャンスを逃したくなくて、自然なふりをして声をかける。

「え、いいの?ありがとう」

蒼太くんが笑顔でそう言ってくれて、きゅんっと心が奪われた。

資料を抱えた蒼太くんの隣を歩く。

廊下の窓から差し込む夕方の光が、彼の横顔をやさしく照らしていた。

「ひよりちゃんは、委員会とか入ってないの?」

不意に名前を呼ばれて、こころが飛び跳ねた。

「え?あ、うん。私は入ってないよ。花音が頑張ってるから、話はよく聞くけど」

「そっか。花音ちゃん、しっかりしてるもんね。ひよりちゃんも、話しやすくて助かるって言って言ってたよ」

「え、それ花音が言ってたの?」

「うん。委員会の話してるとき、よくひよりちゃんの名前出るよ」

なんだろう。

花音の話題なのに、蒼太くんの口から自分の名前が出るだけで、胸がじんわり熱くなる。

蒼太くんがふっと笑った。

「俺も、ひよりちゃんに明るくて、話しやすくていいな」

その言葉に、思わず資料を持つ手がふるえそうになった。

資料を運び終えて教室の戻る途中。

私はずっと、花音になんて言おうか考えていた。

話せたことは伝えたい。

教室に入ると、花音は席でノートを見ていた。

私は小走りで近づいて、思わず声が弾んだ。

「ねね!花音!」

「わ、びっくりした。どうしたの?」

花音が驚いた顔で振り返る。

私は机に手をついて、顔をぐっと近づけた。

「……あのね、蒼太くんと話せたの!」

言った瞬間、顔が熱くなる。

自分でもわかるくらい、頬がぽっと赤くなってる。

「えっ、ほんとに!?どういう流れで?」

花音が身を乗り出してくる。


「廊下でね、蒼太くんが資料見ながら歩いてて、そしたら柱にぶつかっちゃってて…それで、声かけたら、名前も知っててくれてて…」

「え、それめっちゃいいじゃん!ひより、ナイスすぎ!」

「う、うん……なんか、嬉しくて……」

言いながら、また顔が熱くなる。

花音の前なのに、こんなに照れてる自分がちょっと恥ずかしい。

でも、——これが“恋してる”ってことなのかな、って思った。