放課後、昇降口で律が待っていた。

いつも通り、少し早めに来て、私の顔を見ると、ふわっと笑う。

「今日も一緒に帰ろうぜ」

「うん」

律の“好き”は、いつも全力で、ちょっと重くて、でもすごく優しい。

だから今日は、ちょっとだけ“わがまま”な形で。

「律、今日さ……」

「ん?」

「ちょっとだけ、寄り道してもいい?」

「寄り道?どこに?」

「カフェ。新作のミントのラテ、飲みたいなって思って」

律は、目を丸くした。

「え、花音がそんなこと言うの、珍しい」

「……ダメ?」

「え、行きたい!今すぐ行こう」

私は、笑った。

律のこういうところが、ほんとに好き。

カフェに着くと、律は私の分まで注文してくれた。

ミントのラテと、小さなチョコケーキ。

「花音、甘いの好きだったよな。 」

私は、ラテを飲みながら、そっと律の手に触れた。

「もうちょっとだけ、わがまま言ってもいい?」

「もちろん。てか、もっと言って。 全部受け止める準備できてるから」

「……じゃあ、帰り道、手つないで帰ってもいい?」

律は、顔を真っ赤にして、でもすぐに手を差し出してきた。

「いいよ。てか、俺からつなぎたかった」

その手は、あったかくて、ちょっとだけ震えてた。

でも、ぎゅっと握り返してくれた。

——幸せ。

「律、今日ありがとう。なんか、すごく嬉しかった」

「俺の方こそ。めっちゃ嬉しかった」

「……ねえ、律」

「ん?」

「このあと、家来てくれない?」

律は、 目を見開いて、少しだけ固まった。

「え、家……?」

「うん。別に何かあるわけじゃないけど…… 今日、ずっと律と一緒にいたいなって思って」

律は、顔を真っ赤にして、でもすぐにうなずいた。

「行く。てか、行かせて。 」


家に着くと、お母さんが「おかえりー」と声をかけた。

「あら、律くん!ひさしぶりね!
、、、、、もしかして、ふたり、そういう関係になったの?」

手をつないだまま入ってきてしまった。

二人は、顔を真っ赤にしながら、お母さんのことは無視をして、部屋に入れた。

「……花音、今日、どうしたの? なんか、いつもより甘えてくれてる気がする」

「 律が、いつも私のこと大事にしてくれるから…… 」

律は、黙っていた。

でも、腕を回して、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「俺、ほんとに嬉しい。 今日の俺、たぶん世界一幸せ」

「それは言いすぎだって。」

私は、笑った。

律の言葉は、いつも少し大げさで、でも全部本気だから、胸に響く。

「ねえ、律」

「ん?」

「もうちょっとだけ、こうしてていい?」

「もちろん」

——甘えるって、こんなに幸せなんだ。