朝比奈 律(あさひな りつ)は、隣の家の幼馴染。

幼稚園の頃から、毎日一緒に遊んでいた。

夏は虫取り、冬は雪合戦。

律の家の中も、勝手に覚えてしまうくらい、当たり前に隣にいた。

本当に家族みたいな関係だった。

「花音、今日も公園行こうぜ!」

「うん、行くー!」

そんな日々が、ずっと続くと思ってた。

でも——中学生になって、少しずつ変わっていった。

部活が始まって、友達のグループができて、 律はテニス部で忙しくなって、 気づけば、2人で話す時間なんて、ほとんどなくなっていた。

「花音、今日プリント出した?」

「うん、出したよ」

そんな会話だけが、残ってる。

それが、ちょっとだけ寂しかった。

でも、別に“好き”とかじゃない。

律は、家族みたいな存在だったから。 ずっと隣にいて、当たり前だったから。

——そう思ってた。

ある日の放課後。

教室に宿題を忘れて取りに戻ったら、 藤堂 美羽(とうどう みう)が、私を待っていた。

「ねえ、城崎(きのさき)さんってさ、朝比奈くんと仲いいよね?」 「なんかさ、ちょっと邪魔なんだよね」

言葉が、刺さった。

何も言えなくて、ただ立ち尽くしていた。

そのとき——

「おい、何してんだよ」

教室のドアが開いて、律が立っていた。 私の前にすっと立って、見据えた。

「花音に何か言った?」

「べ、別に…」

「だったら、もう帰れよ」

気まずそうに教室を出ていった。

私は、何も言えなかった。

ただ、律の背中を見ていた。

「……大丈夫?」

その声が、優しくて、 その顔が、いつもより近くて。

その瞬間、胸がドキッとした。

家族みたいだったはずなのに。

なんで、こんなに気になるんだろう。