「でも、試合どうするんですか?」

帰り際、2年生の大島がポツリと口にした。剣道部員の中で唯一、真面目に稽古に取り組んでいる貴重な存在だ。

「団体戦、人数足ります?」

加藤は立ち止まり、ため息をついた。

「出るだけだったら、たりてる。でも...勝てるかどうかは、別」

沈黙が落ちる。剣道部員の誰もが「出るだけの団体戦」に慣れてしまっていた。

本気で勝とうともしない、形だけの試合。

でも、2年生たちは違った。まだ、理想を捨てていない。

「黒瀬先輩、戻ってこないんですか?」

その真っ直ぐな瞳に、加藤は一瞬、部長として言葉をつまらせた。

「さあね。......強くなるために、外で練習してるって話は聞いたけど」

「じゃあ、なんで部活来てくれないんですか?なんで教えてくれないんですか?副部長でしょ、黒瀬先輩...。」

大島の一言に、部屋の空気がピリついた。

誰もが薄々思っていること。でも口に出すのは違う。