彼とあたしのツインテール

 お昼休みの教室は、いつもみたいにざわざわしていた。
 窓から差し込む夏の光で、机の表面が少し眩しい。友達とお弁当を食べながら、なんとなく話題は「芸能人のチャームポイント」みたいな方向に流れていった。
「ねえねえ、知ってる? ここにほくろある人ってさ、美人なんだよ~」
 軽い気持ちで言いながら、あたしは自分の顔――右目の下、鼻筋の近くに指を当てた。鏡を見るたびにちょっと気になってしまう、小さなほくろ。
 本当は「気になる」なんて弱音、あんまり人には言いたくない。クラスの男子からはアイドルみたいに見られてるって自覚もあるし、変に突っ込まれたら恥ずかしい。だから、あえて冗談っぽく言ったつもりだった。
 けれど――。
 ぽかん、と。
 周りの空気が一瞬止まった気がした。
 友達は「いやそれ自分で言う!?」と笑いながらツッコんでくれたけど、男子たちは本気で固まっていた。みんな視線を泳がせていて、なんだか変な空気。……やっぱり、自分から「美人」なんて言うもんじゃなかったかな。ちょっと後悔が胸をよぎった。
 そのとき。
「――ほんとだね」
 自然な声が耳に届いた。
 顔を上げると、朋希くんがにこっと笑っていた。作り物じゃない、あくまでいつもの、柔らかい笑顔。
 からかうでもなく、茶化すでもなく。本当に「そう思ったから言った」という顔。
 ――え。
 急に心臓がどきんと跳ねた。
 思わず頬が熱くなって、慌てて視線を逸らしてしまう。
 周りはすぐに別の話題に移っていったけど、あたしだけは頭の中が真っ白。どうして、あんなふうに笑えるんだろう。
 あたしがほくろを気にしてるなんて、知らないはずなのに。
 ……いや、もしかしたら、気づいてた?
 胸の奥がむずがゆくて、落ち着かなくて。
 そのあとの授業なんて、ほとんど頭に入らなかった。

 放課後、なんとなく朋希くんと一緒に帰ることになった。
「今日さ――ほくろのこと、言ってたよね」
 彼がぽつりと口にした。
 ドキッとして、思わず顔をそむける。
「い、言ってたっけ?」
「うん。……あれ、ほんとに可愛いと思うよ」
 さらりとした言葉に、また心臓が跳ねた。教室で聞いたひとことが偶然じゃなかったんだって思うと、嬉しいような、恥ずかしいような。
「な、なにそれ。からかってる?」
「ちがうよ」
 彼は真剣な顔でそう言った。
 夕方の風に、ツインテールがふわっと揺れる。
 顔を見られないまま、「ふーん」と小さく返した。ほんとは耳まで真っ赤になってたのに。

 夜。
 自分の部屋で机に向かってみても、宿題がちっとも進まない。ペンを止めて、無意識に顔に指をあてていた。
 そこには、あたしの小さなほくろ。
 ――「ほんとだね」
 ――「可愛いと思うよ」
 何度も、何度も、その声が頭の中で繰り返される。
 あたし、そんなに可愛いのかな。……いや、違う違う! 勘違いしちゃだめ。
 でも、どうしても顔がにやけてしまう。ほくろを気にするなんて、もうやめようかな。
 そんなふうに思えたのは、彼のせいだ。
 胸の奥があったかくなるのを感じながら、あたしは布団に潜り込んだ。
 ――明日、顔を合わせたら、ちゃんと普通にできるかな。