彼とあたしのツインテール

 新しい年を迎えて三日目。
 おせちやお雑煮にも飽きて、テレビの特番も同じようなネタばかり。家族はまだのんびりしているのに、あたしの心だけはちっとも落ち着かなかった。
 ――やっぱり、新年一番に朋希くんと一緒に過ごしたい。
 そう思ったら、もういても立ってもいられなくなった。
 初詣。理由はそれで十分。年のはじめに一緒にお参りすれば、この一年もきっといいことがあるはず。
 そのために着物を選んで、朝から鏡の前に立ちっぱなし。ツインテールはあえてやめて、髪をアップにまとめ、かんざしを差す。ちょっと大人っぽい雰囲気になったんじゃないかなって、自分でも思う。
 袖をひらりと広げると、布の模様がふわりと舞い上がる。やっぱり、着物って特別だ。
「似合ってるよ、陽奈」
 鏡の中の自分にそう呟いて、思わずにんまり。……いや、ほんとに似合ってるんだから仕方ない。
 問題は――勇気。
 突然押しかけて迷惑がられないかな? 留守だったらどうしよう?
 でも、悩んでるうちに時間が過ぎるのはもったいない。えいっと着替えを整えて、外に出た。

 冬の空気は澄んでいて、少しだけ頬が冷たくなる。いつもの街並みも、慣れない着物姿で歩くとなんだか新鮮だ。
 勉強会の時ぶりに来た、朋希くんの家。あの日のことを思い出しながら、震える指でインターホンを押した。
 玄関から出てきたのは、朋希くんのお母さんだった。そういえば初対面だ。
「まぁ、なんて可愛らしい子なの!」
 あたしが丁寧に挨拶すると、おばさんは目を丸くしながらそう声を上げた。
 それからはもう、着物を褒められて、髪型も褒められて。まるで親戚のおばさんに会ったときみたいで、ちょっとむずがゆい。
「あらいけない、朋希よね。すぐ呼んでくるから、待っててね」
 おばさんは声を弾ませながら、廊下の奥へ消えていった。
 入れ替わるように現れた朋希くんは……うん、想像以上にびっくりしてくれた。目をまんまるにして、言葉が出てこないみたい。
 その反応が欲しかったんだよね。やっぱり頑張った甲斐があった。
「あけましておめでとう! ねぇ、初詣行かない?」
 自然を装って言ってみたけど、心臓はドキドキ。
 朋希くんはまだ驚いていたけど、少しの間のあと「行く!」って言ってくれた。
 彼の支度を今か今かと待っている間、あたしはもちろん顔がにやけっぱなしだった。

 向かったのは、夏祭りのときに来た近所の神社。
 あの時は人でいっぱいだったけど、今日は少し落ち着いている。
 石畳を踏む音が響くたび、夏の夜のことがふっと頭をよぎった。浴衣でしゃがんだ拍子に、朋希くんに下着を見られちゃった、あの失敗。
 思い出すだけで顔が熱くなる。だから、強がってこう言った。
「今日はしゃがんだりなんてしないもん」
 朋希くんは忘れたふりをしてるけど、絶対思い出してるよね。……ま、あたしもだけど。

 参拝の列に並んで、二人で手を合わせる。
 心の中で願ったのは、朋希くんとのこれから。中学を卒業したら、高校は別々になる。そんな不安を神様にそっと打ち明ける。
 どうか、あたしと朋希くんの縁が切れませんように。
 そっと隣を見ると、彼が目を閉じて何かを願っている。
 あたしと同じ願いだったら嬉しいな。いつも以上に真剣な横顔を見て、思わずはにかんだ。

「じゃーん、大吉だよ! 朋希くんは?」
 二人でおみくじを引いた。自慢じゃないけど、あたし生まれてこの方、大吉しか引いたことないの。今年も当然の結果。
「……末吉だって」
 あらら。でも、どこか朋希くんらしいなって心の中で笑っちゃった。
「うーん、微妙?」
「でも、これから先、未来に向かって良くなっていくってことだから」
 そっか。末広がりっていうもんね。
 彼とあたしの“未来”は、どうなるんだろう。お風呂で温まってるときや、ベッドに入ったときとかに、最近よく考えるんだけど……やっぱりわからないや。

 ふと前を見ると、高校生か大学生くらいのカップルが並んで歩いていた。指を絡めて、自然に笑い合って。
 ――いいな。
 あんな風に、あたしも朋希くんと手を繋いでみたい。
 胸がくすぐったくなって、そっと指先を彼の手に触れさせた。ほんの少しだけ。
「ひ、陽奈ちゃん……?」
 やっぱり慌てた。
「だって、さっきのカップル、すごく仲良さそうだったんだもん」
「でも、クラスの子に見られたらどうするの……!」
 うん。そう言うだろうなって予想はしてたけど、なんだか残念。
 彼が照れ屋なことくらい、とっくにわかってるよ? だけど、それに負けちゃうのかな、あたしと手を繋ぐことって。
 着物だって髪型だって、頑張って可愛くしてきたのに。
「あたしは、誰に見られてもいいんだけどな」
 思わず口からこぼれる。
 すると、朋希くんが立ち止まって――真剣な顔であたしの手を握った。指と指を絡めて、ぎゅっと。
 ……びっくり。さっきまで恥ずかしがってたくせに。
「末吉が拓いてくれる未来。待つんじゃなくて、僕の手で掴んでみせるよ」
 もう、そんなこと目を合わせて言われたら。
 今度はこっちが恥ずかしくなっちゃうじゃない。
「ん? なんかかっこいいこと言った?」
 悔しくて、あたしはわざととぼけてみせた。
「な、なんでもないから!」
 途端に真っ赤になって、いつもの調子に戻る彼。
 大胆なとこも、不器用なとこも、やっぱり好きだな。
(……離さないでね)
 
 今日だけは、神様が本当に見守ってくれている気がした。
 将来のことなんてわからないけど、この瞬間だけは確かに特別で、かけがえのないものだった。