秋もすっかり深まり、教室ではクリスマスや冬休みの話題が飛び交っている。だけどその前に――。
「ねえ、陽奈の誕生日って来週だよね?」
「うん、五日。プレゼントよろしくっ!」
そう、もうすぐあたしの誕生日。クラスの女子たちにプレゼントをねだったりして、盛り上がっているところだ。
ちらっと横を見ると、朋希くんがノートに視線を落としたまま固まっていた。耳がほんのり赤い。――うん、可愛い。全部聞こえてたんだろうな。
きっと今、すごく困ってるはず。プレゼントとか、絶対慣れてないだろうし。
でも、そういうところがあたしには嬉しい。だって、真剣に悩んでくれたら、それだけで十分特別なんだから。
家に帰ってベッドに寝転がると、今日の休み時間のことが頭をよぎった。
あたしの誕生日プレゼントを、朋希くんが悩んでる……なんて、ちょっと虫のいい想像かもしれない。でも、もしそうならって思うと、胸の奥がくすぐったくて、息をするのももどかしい。
ふと、逆に考える。――もし、朋希くんの誕生日を知っていたら、あたしは何をあげるんだろう?
ファッションとかにこだわってる感じはしないし、アクセサリーなんてもらっても困りそう。スポーツ用品も……こう言ったら悪いけど、全然似合わないなあ。
そうなると……やっぱり勉強道具? ボールペンとか手帳とか。朋希くんなら、きっとどんな小さなものでも大事にしてくれる気がする。几帳面そうにノートを取る横顔を思い出すと、妙に納得できてしまった。
でも、そういう「無難」なのを渡すのも、ちょっとつまらない気もする。どうせなら、あたしにしか思いつかないものを選んで驚かせたい。
……って、まだ誕生日いつなのかも知らないんだけど。
今度、さりげなく聞いてみようかな。
そう心に決めると、少し乱れたツインテールを指先で整えながら、ひとりで小さく笑ってしまった。
そして迎えた、十五歳の誕生日。
教室に入ると、「おめでとう!」の声とともに、机の上に小さなプレゼントが積み上がっていく。あたしは笑顔で「ありがとう!」を繰り返した。
でも、心のどこかで期待していた彼からは――まだ何もない。やっぱり、あたしの思い過ごしだったのかな。
放課後、少しだけ沈んだ気持ちでカバンを肩にかけたときだった。
「ひ、陽奈ちゃん。ちょっといい?」
朋希くんに呼び止められた。顔は少し強張っていて、でも目だけはちゃんとあたしを見ている。
「……あのさ。誕生日、おめでとう」
差し出されたのは、小さな包み。思わず胸が高鳴る。
クラスのみんなはいつの間にか帰っていて、教室にいるのはあたしたちだけ。世界がふっと静まり返った気がした。
「え、なに? 開けてもいい?」
彼が頷いたから、そっと包みをほどいた。
中から出てきたのは、可愛らしいピンクのリボンがついたヘアゴムが二つ。
「……わあ」
声にならない声が漏れる。
「ほら、なくしちゃったって言ってたから。それに……ツインテール、似合うと思うし」
この前のこと、ちゃんと覚えててくれたんだ……!
「……ありがと。すっごく嬉しい」
笑おうとしたのに、うまく笑顔になれなかった。
少し子供っぽいかもなんて思ったけれど、それ以上に――彼があたしのために選んでくれた、その気持ちが胸に沁みて、目頭が熱くなっちゃったから。
その夜はベッドに入ってからも、朝が待ち遠しすぎてなかなか眠れなかった。
あのリボンを早く使って、可愛いあたしを、可愛くしてくれた彼に見てもらいたいんだもん。
次の日。
早速、ピンクのリボンを耳の横できゅっと結んで、ツインテールを揺らしながら登校する。木枯らしが頬を刺す寒い朝。それでも、あたしの心だけは温かだった。
女子たちが「わ、可愛い!」と声をあげる。「ありがとう」って返すけど、ごめんね――あたしが見ているのは、たった一人だけなんだ。
しばらくして教室に入ってきた朋希くんの視線が、あたしの髪に吸い寄せられるのを感じた。
「……っ」
赤くなった顔をごまかすように、彼は目を逸らそうとする。なんだか胸がくすぐったくなる。
あたしたちだけが知ってる、このリボンの秘密。照れくさいけど、もっと見てほしくて。そっと髪を揺らしてはにかんでみた。
すると、一瞬の間のあと。
彼はしっかり目を合わせて、笑ってくれたんだ。澄んだ笑顔。
それは「似合ってるよ」って褒められたみたいで。言葉を交わさなくても、想いが通じた気がした。
そっか。あたし、朋希くんの気持ちを結んでるんだ。
――もう、ほどきたくないな。
「ねえ、陽奈の誕生日って来週だよね?」
「うん、五日。プレゼントよろしくっ!」
そう、もうすぐあたしの誕生日。クラスの女子たちにプレゼントをねだったりして、盛り上がっているところだ。
ちらっと横を見ると、朋希くんがノートに視線を落としたまま固まっていた。耳がほんのり赤い。――うん、可愛い。全部聞こえてたんだろうな。
きっと今、すごく困ってるはず。プレゼントとか、絶対慣れてないだろうし。
でも、そういうところがあたしには嬉しい。だって、真剣に悩んでくれたら、それだけで十分特別なんだから。
家に帰ってベッドに寝転がると、今日の休み時間のことが頭をよぎった。
あたしの誕生日プレゼントを、朋希くんが悩んでる……なんて、ちょっと虫のいい想像かもしれない。でも、もしそうならって思うと、胸の奥がくすぐったくて、息をするのももどかしい。
ふと、逆に考える。――もし、朋希くんの誕生日を知っていたら、あたしは何をあげるんだろう?
ファッションとかにこだわってる感じはしないし、アクセサリーなんてもらっても困りそう。スポーツ用品も……こう言ったら悪いけど、全然似合わないなあ。
そうなると……やっぱり勉強道具? ボールペンとか手帳とか。朋希くんなら、きっとどんな小さなものでも大事にしてくれる気がする。几帳面そうにノートを取る横顔を思い出すと、妙に納得できてしまった。
でも、そういう「無難」なのを渡すのも、ちょっとつまらない気もする。どうせなら、あたしにしか思いつかないものを選んで驚かせたい。
……って、まだ誕生日いつなのかも知らないんだけど。
今度、さりげなく聞いてみようかな。
そう心に決めると、少し乱れたツインテールを指先で整えながら、ひとりで小さく笑ってしまった。
そして迎えた、十五歳の誕生日。
教室に入ると、「おめでとう!」の声とともに、机の上に小さなプレゼントが積み上がっていく。あたしは笑顔で「ありがとう!」を繰り返した。
でも、心のどこかで期待していた彼からは――まだ何もない。やっぱり、あたしの思い過ごしだったのかな。
放課後、少しだけ沈んだ気持ちでカバンを肩にかけたときだった。
「ひ、陽奈ちゃん。ちょっといい?」
朋希くんに呼び止められた。顔は少し強張っていて、でも目だけはちゃんとあたしを見ている。
「……あのさ。誕生日、おめでとう」
差し出されたのは、小さな包み。思わず胸が高鳴る。
クラスのみんなはいつの間にか帰っていて、教室にいるのはあたしたちだけ。世界がふっと静まり返った気がした。
「え、なに? 開けてもいい?」
彼が頷いたから、そっと包みをほどいた。
中から出てきたのは、可愛らしいピンクのリボンがついたヘアゴムが二つ。
「……わあ」
声にならない声が漏れる。
「ほら、なくしちゃったって言ってたから。それに……ツインテール、似合うと思うし」
この前のこと、ちゃんと覚えててくれたんだ……!
「……ありがと。すっごく嬉しい」
笑おうとしたのに、うまく笑顔になれなかった。
少し子供っぽいかもなんて思ったけれど、それ以上に――彼があたしのために選んでくれた、その気持ちが胸に沁みて、目頭が熱くなっちゃったから。
その夜はベッドに入ってからも、朝が待ち遠しすぎてなかなか眠れなかった。
あのリボンを早く使って、可愛いあたしを、可愛くしてくれた彼に見てもらいたいんだもん。
次の日。
早速、ピンクのリボンを耳の横できゅっと結んで、ツインテールを揺らしながら登校する。木枯らしが頬を刺す寒い朝。それでも、あたしの心だけは温かだった。
女子たちが「わ、可愛い!」と声をあげる。「ありがとう」って返すけど、ごめんね――あたしが見ているのは、たった一人だけなんだ。
しばらくして教室に入ってきた朋希くんの視線が、あたしの髪に吸い寄せられるのを感じた。
「……っ」
赤くなった顔をごまかすように、彼は目を逸らそうとする。なんだか胸がくすぐったくなる。
あたしたちだけが知ってる、このリボンの秘密。照れくさいけど、もっと見てほしくて。そっと髪を揺らしてはにかんでみた。
すると、一瞬の間のあと。
彼はしっかり目を合わせて、笑ってくれたんだ。澄んだ笑顔。
それは「似合ってるよ」って褒められたみたいで。言葉を交わさなくても、想いが通じた気がした。
そっか。あたし、朋希くんの気持ちを結んでるんだ。
――もう、ほどきたくないな。

