彼とあたしのツインテール

 鏡の前で、両手を器用に動かす。
 耳の横あたりでゴムをきゅっと結んで――よし、今日もツインテールは完璧。高すぎず低すぎず、あたしの小さなこだわり。
「うん、可愛い」
 小さく声に出してみる。自分で言うのもなんだけど、鏡の中のあたしはけっこうイケてる。
 学校でもそう言われるし、実際ちょっとだけ自覚してる。
 ただ、ひとつ不満があるとすれば……胸。やっぱりもう少し欲しいって思う。背は伸びてるのになあ。
 それに、友達はもうほとんど生理が始まってるみたいなのに、あたしはまだ。
 こういうの、誰にも言えなくてモヤモヤする。
 でもまあ、気にしすぎても仕方ないか。
 髪を揺らして、背筋を伸ばして。
「よし、今日から新学期!」
 気合を入れて家を出た。

 通学路の桜並木は、まだ花びらが少しだけ残っていた。ピンクのかけらが春の風に舞って、光の粒みたいに散っていく。
 制服の袖にひらりと落ちた花びらを指で払うと、それだけでちょっと幸せな気分になった。
 新しいクラス、どんなメンバーになるんだろう。友達は同じクラスかな。男子は……まあ、あたしにはあんまり関係ないか。
 そう思いながら、足取り軽く校舎に向かった。

 少しそわそわした雰囲気の教室に入り、割り当てられた席に座る。しばらくしてあたしの隣にやってきた男子は――なんというか、とても「普通」だった。
 髪は中途半端に伸びていて、どこか寝ぐせっぽい。制服はきっちり着てるのに、猫背のせいかどうもパッとしない。身長はあたしよりほんの少し低いのかな、男子にしては小柄かも。
 全体的にぼーっとしているけれど、あたしと目が合った瞬間、彼の顔が一瞬で赤くなったのがわかった。
「よ、よろしく……」
 彼はおずおずと声をかけてきた。
「うん、よろしくね」
 あたしはにっこり笑って返した。笑顔はサービス、ってやつ。
 まあ、真面目そうだし、別に悪い印象はないかな。
 それが彼――真鍋朋希(まなべともき)との最初のやり取りだった。

 次の日の放課後。
 トラックを走るたび、耳の横で結んだツインテールが揺れる。
 髪先がふわっと跳ねるのを感じると、全力で走ってるんだなって気持ちになる。陸上部に入って良かったと思える瞬間だ。
 直線に入るとスピードを上げる。風を切る音と、心臓の鼓動。汗で額が光るのも、なんだか心地いい。
 ふと視線を感じて顔を上げた。
 校舎の窓から誰かがこっちを見ている。
 ――真鍋くんだ。
 教室にまだ残ってたのかな。じっと見つめてくるその目に気づくと、なんだか少しくすぐったい気持ちになる。
「ふふっ」
 思わず笑って、手を振ってみた。
 すると彼は、びくっとしてから、ぎこちなく小さく手を振り返してきた。
 ……ちょっと可笑しい。あれは絶対、あたしに見とれてたでしょ。
 いや、まさかね。でも――。
 新しいクラス。新しい隣の席。
 今年の春は、なんだか面白くなりそうな予感がしていた。