まさかハイジが、あの憎たらしい緑ボーズが、私にこんなふうに接してくれるなんて。
なんでコイツを嫌ってたんだろうって、改心しそうになるほどだった。
本当に嬉しくて、これまでの自分の考えを恥じた。
ただのカルピス好きのまりもっこりじゃなかったんだって。
この人、なんていい人なんだろうって……惚れぼれした。
すっかりフィルターがかった私の目には、ハイジが後光の差す聖人のように見えて、うっとりと見惚れてしまっていた。
そんなぽわんとしたマヌケ面で見上げる私に、ハイジはフッと爽やかに笑い、
「ただでさえ貧相な顔してんだ、せめて笑顔でいるよう心掛けとけよ。しみったれたツラしてっと、目も当てられねえだろ。な?」
と、にこやかに言ってのけた。
ビックリした。ひたすらビックリした。
ビックリしすぎて、途轍もなくブサイクな顔で固まった。
なんて男だ。
こんな嫌なヤツが世の中にいるのかと驚愕した。
やはり私は、間違ってなんかいなかったのだ。
私の目の前に立っていたのは、聖人どころか悪魔の角と羽を生やし、ケタケタ笑うまりもっこりだった。
「……コイツが響さんの妹だと、知ったからか。だからまた、逃げんのかよ」
血も涙もない悪魔まりも、むしろアクマリモから視線をずらすと……タイガと目が合った。
タイガが、私を見ていた。
心臓を貫くような視線に、神経がぴんと張り詰める。
だけど、それもほんの一瞬のこと。
タイガはジローさんへと目をやった。
「もものため、か?結局はてめえのためだろ。てめえの身が、カワイイだけだろ」
ジローさんは、何も言わずにタイガを見つめていた。
黒く澱んでいた瞳に、ほんの一瞬、感情の揺れが覗いた気がした。
「コイツが響さんにとって、かけがえのない存在だから。響さんが何を差し置いてでも、大切に守ってきた存在だから……投げ出したくなったのかよ」
それでも、ジローさんは黙ったままだった。
彼が硬く閉ざす心の扉をこじ開けるように、タイガは真っ直ぐに挑んでいく。
「傍にいればその存在に、てめえが必死に隠してきた傷をエグられるからか」
タイガの言葉ひとつひとつが胸に突き刺さるようで、思わずそこに手をあて、ぎゅっと握りしめた。
「逃げんなよ」
ジローさんは、一言も反論しなかった。
タイガの、偽りのない真剣な言葉に。
ただ静かに耳を傾け、タイガを捕らえる瞳は──キングとしての威厳すら窺えそうなほどに、どっしりと構えていた。
さっきまでの、弱々しく暗い影が差していた瞳は、もうどこにもなかった。
ストレートにぶつかってくるタイガに、ジローさんは……応えようとしている。


