人は皆、自分の限界を弁えている。
自分の器を。
生きていくうえで、自分の器じゃ受け止めきれないと判断して投げ出すことは、決して悪いことじゃない。
そうやって現実と折り合いをつけて、みんな必死で生きてる。
だけど時には、逃げちゃいけない場面に遭遇することがある。
納得させて終わらせられない時が、誰にだってあるんだ。
自分の限界を決めるのも、まだやれると踏ん張るのも、自分自身。
可能性を握っているのは、他の誰でもない。自分だけなんだ。
「まだ、死のうと思ってんのか。まだ……んなクソつまんねーこと考えてんのか、てめえは!!」
熱の籠もったタイガの眼差しに、声に、ジローさんは……睫毛を伏せた。
「どれだけみっともねえ傷を増やしゃあ、気が済む。もう数えんのもめんどくせえぞ」
その時、私は初めて知った。
出逢う前の彼を。
ジローさんが、自ら命を絶とうとしていたことを。
それも一度だけじゃない。
何度も何度も、命を捨てようとしていた。
この世に、生きる希望を見出せなくて──。
飛野さんが言った。
“怖くても、目を逸らすな”
最初は、怖かった。
タイガがジローさんに拳を振るったこと。
タイガの見たことのない顔も、聞いたことのない声も。
男にしかわからない世界も。
「……俺には、響さんが全てだった」
でも今は、ただ悲しかった。
底のない悲しみだけが、胸の奥を突き上げる。
鋭利な刃物のように、心をズタズタに切り裂いていく。
“俺の永遠の憧れ”
大好きな響兄ちゃん。
そんな響兄ちゃんが、ジローさんにとっては生きる“理由”だったんだ。
真っ暗な世界にいたジローさんに、響兄ちゃんは光だったのかもしれない。
私にとって、響兄ちゃんが太陽だったように。
私よりも長い間傍にいて、私よりも響兄ちゃんを知るジローさんには……。
置き去りにした過去に、何があったの?
私には、わからない。
わかるはずがなかった。
自ら“死”を選ぼうとしたジローさんの苦痛が。
それしか選択肢がなかった、彼の絶望が。
ただ漠然と「人は生きるもの」だと思いこみ、疑いもしなかった私に。
どれだけの“死にたい夜”を彷徨い、越えてきたの?
どれだけ……出口の見えない闇を、歩き続けてきたの?


