気まぐれヒーロー2




「立てよ」



凍りつくような低い声が、ジローさんへと投げられる。

ジローさんを見下ろすタイガの眼差しは、刺し貫くような鋭さと圧があった。
もし私がその標的になっていたら、へたり込んでいただろう。

さっき私に凄んだ時とは、比にならない威圧感。

だけど、相手は白鷹次郎なんだ。
ビビりでチキンな私とは違う。

ジローさんは臆することなくゆっくりと上半身を起こすと、切れた唇から流れる血を手の甲で拭った。
口の端がうっすら赤く滲んでいる。


そして、彼が立ち上がろうとしたその瞬間。

ジローさんが自力で立つより早く、タイガの手が伸びた。

荒っぽくジローさんの胸倉を掴み、力任せに引き寄せる。

牙を剥く虎のような形相で至近距離に迫るタイガを前にしても、ジローさんの表情は変わらない。

ただじっと、無限の闇のように深い瞳で……タイガを見つめるだけだった。



「……何にも、変わっちゃいねえじゃねーか」



ふとタイガの口から零れた声は、荒々しい中にも、どこか寂しさを帯びていた。

あの勢いのままなら怒鳴るんじゃないかと思えたそれも、静かに紡がれる。



「お前はあの時から、何ひとつ……!!」



気を張っていたタイガの顔から、獰猛さが薄れていく。
ジローさんを映す瞳が、微かに和らいだ。

やるせなさと、哀しみさえも孕んで。


けれど、それもほんの束の間。

タイガは再び、隙を見せないように表情を引き締めた。



「イライラすんだよ、てめえのその陰気くせえツラ見てっとよ。自分だけが不幸みてえな目しやがって。この世の絶望、全部背負ってるって顔だ。気に食わなかったんだ、前から」



私は二人から──いや、タイガから目が離せなかった。

これがタイガの本音。

エロの帝王も軽口ばかりのチャラさも何もかも取っ払った、黒羽大駕という男の本気なんだ。



「てめえの生き方は楽だよなァ。何に対しても、真っ向からぶつかっていかねえ。向き合おうとしねえ。そうやって逃げ続けて、思い通りにいかなくなったら“仕方ねえ”と自分を納得させて諦める。ずっとそうやってきたんだもんな」



タイガの言葉に、胸が締め上げられる。
痛くなるほど苦しくなるのは、なぜなんだろう。


きっとそれは……ジローさんだけが囚われる事じゃないからだ。