「タイガ!」
半ば叫ぶようにその名を呼び、反射的に身を乗り出した私の前に、誰かの腕がすっと伸びてきた。
これ以上行かせないように。
タイガとジローさん、二人の邪魔をさせないように、私の行く手を遮った。
「黙って見てろ」
私をその場に留まらせたのは、腕だけじゃない。
この声……私の恐怖心を煽るような、男の声もだ。
私を制したのは、ハイジだった。
ヤツは私の隣に立ち、強い光を宿した黒い瞳で、黒羽大駕と白鷹次郎をしっかりと見据えていた。
「でも、……」
「お前ここを何だと思ってる。オジョーヒンなお茶会サークルじゃねーんだよ」
初めて目の当たりにする本気の二人に、気が気じゃないっていうのに。
ハイジは私にちっとも目をくれることなく、投げやりにそう言った。見上げたアイツの横顔は真剣そのものだった。
ハイジもまた、本気だったんだ。
膨れ上がっていくばかりの不安に、心臓が狂いそうになる。
ハイジが言いたいことは何となくわかる。
……けど、それはあくまで理屈として。
ここは“黒鷹”。
血の気の多い、気性の荒い男達が集う場所。
こんなの、彼らにとっては取るに足らないこと。
挨拶みたいなもんなんだろう。
けれど……
人が殴られるのを、ましてや自分の身近な人達のそんな光景を、すぐそばで見せられて……落ち着いてなんかいられる訳がない。
心配でどうしようもなくて、ハラハラしてるのはどうやら私だけのようで。
「話が通じねえなら、拳で。それが一番手っ取り早ェんだよ、俺らみてえな単細胞は」
あの穏和なひーちゃ……飛野さんまでもが、笑いながら何でもないことのように、この場所の“ルール”を教えてくれた。
彼らの世界では、それが常識なんだと。
それから、飛野さんは朝美に声をかけた。
外で待っていよう、と。
どうせそう時間はかからない。全部片付いたら家まで送るから、と。


