「太郎さんに、何か言われたんですか……?」
唐突な彼の態度に、心当たりがあるとすれば、その人しかいなかった。
ジローさんのお兄さん。
私を白鷹家に招いて、響兄ちゃんとの思い出を語ってくれた。
あの夜、太郎さんは私に一つの忠告をした。
“俺は君があいつらと一緒にいるのは反対だ”
“あいつらとは……一緒にいない方がいい”
それは私を思ってくれた上での、言葉だった。
余りにも世界が違いすぎる彼らと、私への危惧だったはずだ。
だけど、私は決めた。
彼らと出会い、自分の目で見て、心で感じて……答えを出した。
離れたくない。絆を断ちたくない。
一緒に、生きていきたいって──。
まだ太郎さんには報告していなかったから、もしかすると、彼がジローさんに私と距離を置くよう言ったのかもしれない。
私からではなく、彼らの方から離れていくように。
けれど、
「アイツは関係ねえ。俺が決めたことだ」
その推測は、あっけなく否定された。
そしてそれは、私をさらに深い悲しみへと追いやるだけだった。
決めたのは、ジローさん。
太郎さんでも他の誰でもなく……彼が、私との間に線を引いた。
「お前が抱えてる問題は、俺が解決してやる。だからもう何も心配しなくていい。元の生活に戻れ」
ジローさんの声は淡々としていて、無機質だった。
違う。そんなこと、望んでない。
私はただ、傍にいたいだけなのに。
『嫌だ』と叫べばよかったのかな。
泣いて、喚いて、噛みつけば、何か変わったのかな。
「もう遅え、帰れ。送ってくから」
なくなっちゃう。
本当に、これで最後になっちゃう。
ここで黙って身を引いたら、二度と──
彼らと笑い合うことも、馬鹿を言い合うこともできなくなる。
「……はい」
それなのに、何も言えなかった。
ジローさんに、受け入れられないという意思を示すことができなかった。
彼の眼差しが作り出す威圧的な空気が、私の言葉を封じる。
俯いて、灰色のコンクリートの床を見つめることしかできなかった。
情けなくて、唇を噛む。
行きたくない、終わりたくない。
心からの叫びが、足を動かなくさせる。
「文句は言わねえ。その代わり──」
突然、ゾクリとするほど低く、重たい声が頭上から響いた。
ジローさんじゃない。
この声は……
「一発、殴らせろ」
タイガだ。
顔を急いで上げたのと、金色の閃光が視界を走ったのは、ほぼ同時だった。
速すぎて、何が起きたのかわからなかった。
風を切る音が鼓膜を震わす。
次の瞬間、目に飛び込んできたのは──
ジローさんの頬を抉るタイガの拳。
そして轟音と共に、派手に床に叩きつけられる彼の姿だった。


