気まぐれヒーロー2




夢かと思った。


これは私の夢の中の出来事なんじゃないか、って。


目が覚めれば、なんてことはない。
自分の部屋のベッドで横になっていて。

今日のことは、何もかもが……夢の中の話。


“黒鷹”は儚く、消えていく。


だけど。
胸の奥で軋むように痛む鼓動が、ざわめく人の声が、窒息してしまいそうな息苦しさが。

現実なのだと、私に知らしめる。


もしかしたら、ジローさんのことだもん。

ジローさんにしかわかんない、宇宙語かもしれないじゃん。



「ね、通訳して」



ジローさんの突き放すような視線から逃れたくて、私は顔を背けた。


ハイジに向かって、笑いながら言った。


だってそうでしょ?おかしいじゃん、こんなの。


ジローさん、さっきは私の大好きなジローさんだったもん。優しくしてくれたもん。


今のセリフだって、きっとジローワールドが炸裂しただけのことなんだよ。



「……ねえ、ハイジ」



でも。
ハイジは、笑い返してくれない。

フザけてもくれないし、私を茶化しもしない。


ハイジの目も、私と同じだった。

戸惑いに染まり、ただジローさんを見つめていた。

それはヤツ自身も、ジローさんの言動を予想していなかったということ。



「ねえ、タイガ……」



縋るように次の名前を呼んでも、返ってくるのは沈黙だけ。

タイガも、何も言わなかった。


誰よりも、ジローさんに近い人だと思ったのに。

タイガなら『ボケてんじゃねーよ』って、笑い飛ばしてくれるって。



「飛野さん、……!!」



誰でもいい。

誰でもいいから……教えて。


ジローさんの心を。

厚い壁の向こうにある、本当の気持ちを──教えて。



「お願い……通訳してよ……!!」



声が震えて、上手く出せない。

混乱するばかりで、取り乱しそうになる私に──




「通訳もなにも、そのまんまだ。誰にも文句は言わせねえよ」




ジローさんは一番欲しくなかった“現実”を、なんの躊躇いもなく“現実”にしてしまった。


認めてもらえたと思ってたのは、私だけだったんだろうか。

ジローさんは一緒にいた日々を……全部、忘れて生きていけと言った。

なかったことにして、前の生活に帰れと。


理由も告げず、問うことすら許してくれない。

涼やかな声で、私の前に幕を下ろした。