夢かと思った。
これは私の夢の中の出来事なんじゃないか、って。
目が覚めれば、なんてことはない。
自分の部屋のベッドで横になっていて。
今日のことは、何もかもが……夢の中の話。
“黒鷹”は儚く、消えていく。
だけど。
胸の奥で軋むように痛む鼓動が、ざわめく人の声が、窒息してしまいそうな息苦しさが。
現実なのだと、私に知らしめる。
もしかしたら、ジローさんのことだもん。
ジローさんにしかわかんない、宇宙語かもしれないじゃん。
「ね、通訳して」
ジローさんの突き放すような視線から逃れたくて、私は顔を背けた。
ハイジに向かって、笑いながら言った。
だってそうでしょ?おかしいじゃん、こんなの。
ジローさん、さっきは私の大好きなジローさんだったもん。優しくしてくれたもん。
今のセリフだって、きっとジローワールドが炸裂しただけのことなんだよ。
「……ねえ、ハイジ」
でも。
ハイジは、笑い返してくれない。
フザけてもくれないし、私を茶化しもしない。
ハイジの目も、私と同じだった。
戸惑いに染まり、ただジローさんを見つめていた。
それはヤツ自身も、ジローさんの言動を予想していなかったということ。
「ねえ、タイガ……」
縋るように次の名前を呼んでも、返ってくるのは沈黙だけ。
タイガも、何も言わなかった。
誰よりも、ジローさんに近い人だと思ったのに。
タイガなら『ボケてんじゃねーよ』って、笑い飛ばしてくれるって。
「飛野さん、……!!」
誰でもいい。
誰でもいいから……教えて。
ジローさんの心を。
厚い壁の向こうにある、本当の気持ちを──教えて。
「お願い……通訳してよ……!!」
声が震えて、上手く出せない。
混乱するばかりで、取り乱しそうになる私に──
「通訳もなにも、そのまんまだ。誰にも文句は言わせねえよ」
ジローさんは一番欲しくなかった“現実”を、なんの躊躇いもなく“現実”にしてしまった。
認めてもらえたと思ってたのは、私だけだったんだろうか。
ジローさんは一緒にいた日々を……全部、忘れて生きていけと言った。
なかったことにして、前の生活に帰れと。
理由も告げず、問うことすら許してくれない。
涼やかな声で、私の前に幕を下ろした。


