気まぐれヒーロー2




そして……


「オイ、ジロー!!てめえ犬っころの飼い主だろ!!どうにかしろ」


タイガはジローさんに罪をなすりつけるという、卑怯な手を使った。


さっきからジローさんは、一言も喋らない。

周りがどんちゃん騒ぎになってるのに、彼だけが別世界にいるようだった。



「タマ」



そこでようやく、ジローさんが言葉を発した。


形の良い唇が、ゆっくりと開かれる。


彼が、静かに私を呼ぶ。


胸が一瞬で跳ねる。
心臓の音が、やけに鮮明に響く。


流された視線に……息が詰まりそうになった。


何の色も宿さない、生きてるのに生気をまるで感じない“無”の眼差し。


背筋が寒くなった。


ジローさんの、目じゃない。

私の大好きな、あのジローさんの目じゃ……。


後ずさりしてしまいそうになるくらい、言い知れぬ不安と恐怖を私に植え付ける。

もとから怖いくらいに綺麗な人だったけれど、その瞳には確かな優しさと温もりが、在ったはずなのに。


それすらも幻だったんじゃないかと思わされるほどに、彼の目は……不気味に(かげ)っていた。




「忘れろ」




ため息さえ漏れてしまいそうな、妖艶な微笑を浮かべ、彼は一言落とした。


理解が追いつかず、私はただ、バカみたいに見つめ返すしかなかった。

ジローさんは尚も、重ねていく。




「今日あったこと、ここで見たこと──全部、忘れろ。俺達と過ごしたことも、全て忘れて……これから暮らせ」




残酷な、言葉を。