他の生徒達もケイジくんを除いて、みんな互いに目配せしながら私とハイジの様子を見守っている。
ハイジと会うのは……火曜日以来。二日ぶり。
コイツから何度も着信があったのを、私は一回も取らなかった。
だからって、本当にここまで来るなんて……!!
速まる鼓動に、きゅっと唇を噛み締める。
私とハイジを取り巻く視線が、痛い。
ヤツがどんな行動に出るのか、それだけがみんなの興味の対象になっている。
ヘタな真似しないでって、ハラハラしてたのに。
ハイジは、
「来い」
一言ぶっきらぼうに吐き捨てると、私の腕を雑に掴んで教室の外へと歩き出した。
その瞬間、教室中が女子の悲鳴にも近い叫び声に満たされた。
最悪だ、と思った。
「った、……」
握られた箇所に痛みが走って思わず顔をしかめると、ハイジは怪訝そうに視線を投げかけてきた。
それでも立ち止まろうとはせずに、ヤツは私を有無を言わせない力で引っ張り教室を出て行こうとする。
「ハイジ……わかっとるやろな」
背後からのもう一人の“彼”の低い声に、ハイジは歩みを止め、顔だけを動かしてそちらに目をやった。
緊迫した空間。
双子はどちらも、獣のような眼差しを交わす。その気迫に、口を挟むことなんてできない。
先にハイジの方が小さく舌打ちすると、ケイジくんから前方へと視線を戻し、再び足を進めた。
私もついていくしかなく……というか、強い力に従うしかなく。
教室を後にしようとした時、「お~コワ」とわざとらしいケイジくんの声が、女子の甲高い声に混じって聞こえた気がした。
廊下もすごい人で、耳を塞ぎたいくらいに歓声がうるさすぎて、ハイジに強引に連れて行かれる私に敵意剥き出しの無数の眼差しが注がれる。
スマホを構えている子だっている。
“えーやだぁ……なんで!?”
“ハイジくんとどういう関係なわけ!?”
“っていうか田川くんどうなったの”
“マジでショックなんだけど……”
“ケイジくんも花鳥さんと一緒にいたよね!?”
“アイツ、何なの?”
ほら、わかってたことじゃん。
ハイジ……あんたは“コレ”を防ぐために、人目につく場所では私に近づいてこなかったんじゃないの?
ちゃんと考えてくれてたんじゃないの……?
人だかりを進むハイジは、一切周りには目もくれず、私に振り向くこともせずに一心にどこかを目指していた。
その後ろで女子に睨まれ続ける私は、小さくなることしかできなくて。
緑の後頭部を、恨めしげに見上げるしかなかった。

