手渡された鉄パイプのずっしりとした重みが、現実味を帯びさせる。
今、私がいるのは紛れもない現実の世界。妄想なんかじゃない。
だって妄想なら、この後『な~んちゃって~!!』とかふざけて、みんなで奇妙な踊りでも始めるはずだ。
けれどそうじゃない。
誰一人、踊りはしない。
誰一人……私から視線を逸らさない。
視界に収まりきらない、広大な倉庫。
何十台もの単車と、屈強な男達。
ガラクタ、ドラム缶、工具、鉄材、一斗缶、積み上げられたダンボール、タイヤ、空き缶、タバコの吸い殻……それらが辺りに散乱している。
鼻を刺すガソリンとタバコの匂い。
ここは、男の世界だ。
私には理解できない、男達だけの世界。
泥臭く、野蛮でがさつで、乱暴で荒くれた場所。
それが彼らの居場所。
──私が望んだ。
“仲間になりたい”と。
この世界に、私も入りたいと。
ぐっと、鉄パイプを握り締めた。
ざらついた感触が、手のひらに広がる。深呼吸をして、少しずつ……振り向いていった。
翔桜の男達と、向き合うために。
目が合った瞬間、彼らは身構える。目を大きく見開き、その顔に緊張が走る。
きっと私の形相にも余裕がなく、追い込まれて殺気が滲んでいたからかもしれない。
手が、小刻みに震え出す。
汗で滑りそうになりながらも、鉄パイプを握り締める手に力を込める。
心臓は胸を突き破りそうなほどに早鐘を打ち、呼吸もままならない。
周囲の視線が私を追い立て、焦りが思考を奪っていく。
足を一歩踏み出し、鉄パイプを振り上げた。
──ダメ。
何してるの。
やめないと……こんなこと。
声がする。心の声が、頭の中に響く。
やめさせようと必死に語りかけてくる。
でも、この体を突き動かすのは“鷹”の静かな圧力。
まるでマリオネットのように、誰かに操られているような感覚だった。
一度目を閉じ、震える胸を落ち着かせる。
そして覚悟を決めて瞼を開いた。
恐怖に慄く翔桜の男達。
「……や、やめろ!!」
腕を、一思いに振り下ろした。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
訳もわからず、ただそれだけを。
罪から逃れる呪文のように、繰り返した。
倉庫の隅々まで響き渡る、男達の絶叫。
「もも!!」
それまで静観していた朝美が、堪え切れずに上げた涙声。
私を満たす音は、それだけだった。


