気まぐれヒーロー2




手渡された鉄パイプのずっしりとした重みが、現実味を帯びさせる。

今、私がいるのは紛れもない現実の世界。妄想なんかじゃない。


だって妄想なら、この後『な~んちゃって~!!』とかふざけて、みんなで奇妙な踊りでも始めるはずだ。


けれどそうじゃない。


誰一人、踊りはしない。

誰一人……私から視線を逸らさない。


視界に収まりきらない、広大な倉庫。

何十台もの単車と、屈強な男達。

ガラクタ、ドラム缶、工具、鉄材、一斗缶、積み上げられたダンボール、タイヤ、空き缶、タバコの吸い殻……それらが辺りに散乱している。


鼻を刺すガソリンとタバコの匂い。


ここは、男の世界だ。

私には理解できない、男達だけの世界。


泥臭く、野蛮でがさつで、乱暴で荒くれた場所。

それが彼らの居場所。


──私が望んだ。


“仲間になりたい”と。


この世界に、私も入りたいと。



ぐっと、鉄パイプを握り締めた。

ざらついた感触が、手のひらに広がる。深呼吸をして、少しずつ……振り向いていった。


翔桜の男達と、向き合うために。


目が合った瞬間、彼らは身構える。目を大きく見開き、その顔に緊張が走る。


きっと私の形相にも余裕がなく、追い込まれて殺気が滲んでいたからかもしれない。


手が、小刻みに震え出す。
汗で滑りそうになりながらも、鉄パイプを握り締める手に力を込める。


心臓は胸を突き破りそうなほどに早鐘を打ち、呼吸もままならない。


周囲の視線が私を追い立て、焦りが思考を奪っていく。


足を一歩踏み出し、鉄パイプを振り上げた。



──ダメ。


何してるの。


やめないと……こんなこと。



声がする。心の声が、頭の中に響く。
やめさせようと必死に語りかけてくる。


でも、この体を突き動かすのは“鷹”の静かな圧力。

まるでマリオネットのように、誰かに操られているような感覚だった。


一度目を閉じ、震える胸を落ち着かせる。

そして覚悟を決めて瞼を開いた。


恐怖に慄く翔桜の男達。



「……や、やめろ!!」



腕を、一思いに振り下ろした。



ごめんなさい。

ごめんなさい。



訳もわからず、ただそれだけを。

罪から逃れる呪文のように、繰り返した。


倉庫の隅々まで響き渡る、男達の絶叫。



「もも!!」



それまで静観していた朝美が、堪え切れずに上げた涙声。


私を満たす音は、それだけだった。