気まぐれヒーロー2




タイガは踵を返し、私から遠ざかってジローさんの横を通り過ぎ……少し離れた場所で歩みを止めた。


背を屈め、薄汚れた床に落ちていた長い棒状の物を拾い上げる。そして再び、こちらへと歩いてくる。

その一連の動作を、私はただ無心で眺めていた。


タイガの手に握られているのは……鉄パイプ。


私の正面で立ち止まったタイガは、その鉄パイプを目の前に翳し、先端を突きつけてきた。



「やれ」



一言。
たった、一言だった。

タイガの口から告げられたのは。



「え……?」



蒸し暑いはずの夜なのに。

私を取り囲む空気は、ひんやりとしていく。


熱気なんて一瞬で引き、例えようのない不気味さがじわじわと忍び寄る。


重苦しく、薄気味悪い気配は、到底穏やかじゃない。


タイガは、笑っていた。
いつものように。いつも私が見ている笑顔を、同じように浮かべて。



「ジローにやらせねえって言うんなら、お前がやれ」



笑って、言うんだ。本当にタイガらしい顔で。

信じがたいセリフを、平然と吐きながら。


私が顔を強張らせても、その笑みを崩すことはない。

“受け取れ”と言わんばかりに、鉄パイプを差し出し続ける。


私は喉に溜まった唾を一度飲み込み……砂や泥にまみれ、錆び付いた硬質な鉄の棒へと、恐怖に揺れる視線を落とした。


これで殴れ、と。


タイガは、何でもないことのように言い放つ。



──さっさとしろ。


そんな声まで聞こえてきそうな目をして。



ジローさんや飛野さん、ハイジに救いを求めても……彼らの目は、タイガと同じだった。


背筋に悪寒が走る。


誰も許しては、くれない。

誰も「なにバカなこと言ってんだ」って、タイガを止めようとはしない。



「タイ──」
「証明してみせろ」



恐ろしくなって訴えかけようと、名前を呼ぼうとしたのに。

その名を、タイガは呼ばせてもくれなかった。


私の声を遮ったその声音は……獣が唸るように低く、太く。




「お前が、俺達の仲間だっていうんなら」




一切の甘えを、断ち切った。