ケイジくんは私達の傍を離れずに、楽しい話をしてくれたりして和やかな空気を作ってくれていた。
タコ焼きの話をふってみたら、「たこやき仙人の怒りを買うから」と話題を逸らされた。真顔でそう言っていた。
知らぬ間に、朝美様までハートを撒き散らしながら寄ってきて、私達の輪に加わっていた。
寛大なケイジくんは、まさにタコの如く吸いつくような朝美様の絡みにも笑顔で応対していて。
ますます彼女をヒートアップさせていた。
激しさを増したくねくねダンスはもう、見てるこっちが心配になるくらいの神がかった動きだった。
それを眺めていた私は、完全に油断しきっていた。
突如スマホが震えたことに、思わずビクッと体が跳ねる。
わかってる。
アイツからのお呼び出しだって、わかってるんだ。
念のため、スマホを取り出して確かめると……思った通り。
カルピスの少年からの着信だった。
でも、私は無視を決めた。
出る気になれなかった。
震え続けるスマホをポケットにしまい、切れるのを待った。
そのうちバイブが止まって、胸を撫で下ろしたのも束の間──
いきなり教室の戸が乱暴に開けられて、耳をつんざく激しい音に、全員の視線が入り口へ集中した。
私もそっちに視線を向ける。
会いたくなかったのに。
顔も見たくなんか、なかったのに。
“私の教室”に来るなんて、絶対にないって思っていたのに。
どうして?ハイジ……。
まさかの風切灰次の登場に、空気が凍りつく。誰も声を発さない。
教室に、鉛のような静けさが落ちる。
「なんや、お前来とったん?」
ヤツと同じ顔をした赤髪の彼だけが、能天気な声色で相方に声をかけていた。
みんなそれまでの動作を一時中断し、その体勢のまま一声も発せずに双子を見比べるだけだ。
私と小春も同様に、目を見開いていた。
ただ一人朝美様だけは「えぐ!!ハイジくんとケイジくんのツーショットだよぉ!?写真写真!!」とはしゃいでいた。
なんで、あんたがここに来るの?
“私の教室”に来たことなんて、今まで一度もなかったのに。
ううん。
来ないようにしてたこと……知ってるのに。
茫然としていると、ハイジは無言のまま教室に怒りを滲ませた足音を響かせ、まっすぐ歩いてくる。
そして私の正面で立ち止まり、冷たい影を落とした。
私を見下ろす目は、明らかに不機嫌で。
ごくりと、唾を飲み込むしかなかった。

