どうしようもなく、心臓が踊り狂ってる。バクバク鳴って破裂しちゃいそう。
冷たいとさえ感じるような、薄茶色の瞳に射抜かれて身動きは取れない。
けれど……目を逸らすことはしない。
私の目を、見てほしい。
どうにか伝わってくれたらいい。
何も知らない私なんかが、この辺りに名を馳せる“白鷹次郎”になんて無謀なことをしてるんだろう。
だけど、これだけは知っている。
私のご主人様のジローさん。
おさんぽに連れていってくれる、犬好きのジローさん。
また戻ってくれないかな、なんて……微かな期待を胸に抱いてる。
タイガたち外野は、出しゃばった行動を取った私を咎めもせず、黙って見ているだけ。
だから私は下がらなかった。
彼らが黙したままってことは、まだジローさんの前にいていいってことだ、と勝手に解釈した。
ジローさんは無言で私を見つめ続ける。
そして……不意に腰を屈めて目線を合わせ、自然な仕草で両手の親指を私の目の下に添えた。
突然のことで身を固くした私に構わず、親指は横にスッと滑る。
まるで、下まぶたに付いた“何か”を拭うように。
美しすぎる顔が近すぎて、魅力的な瞳にすっかり虜になっている私に、彼は……
「犬じゃなくてパンダになりてえのか」
無表情なまま、そう言った。
なに言っちゃってんだろうこの人、と思った。
けれど意味不明発言の答えは、彼の指先に残った黒い汚れが示していた。
これは……朝美にお化粧された時、目の周りを囲んだ黒のラインやマスカラが落ちた跡じゃないんだろうか。
ああ、そういえば……私、水を頭から被ったんだった。顔だってびしょびしょで。
というか、お化粧落としたいのもあったんだけど。
でもまさか……こんな事態になっていようとは……!!
わ、私、今まで目の下真っ黒でパンダになってたの!?
あんなおマヌケな顔でずっといたの……!?っていうか、こんなすぐ落ちちゃうもんなの!?
ちょっとおおお、何で誰もツッコんでくれなかったのよおお!?
羞恥に襲われる私に、ジローさんはさらに追い打ちをかける。
「……他のヤロウの前で、肌晒してんじゃねえよ」
私が羽織っているタイガの制服の上着を、彼は静かな声でそう言いながら、甲斐甲斐しくボタンを留めてくれたのだった。
「“ジローさん”は『ブラジャー見えてんぞ』って言いてえんだよ」
バカみたいに突っ立っている私に、タイガの究極の一声がぶつけられた。


