彼の指先から放たれたタバコの吸い殻が、時の流れに逆らうようにゆっくりと落ちていくのを、私はぼんやりと目で追っていた。
灰が散り、コンクリートの床に残骸が横たわったと同時に──ジローさんは動き出した。
翔桜の六人の方へ。
目許に影を落とす銀色の髪。
わずかに混じる、黒。
切れ長の二重の目は、ただ前方だけを鋭く捉えている。
“俺がやる”
その意味を問いかけたところで誰も答えてはくれないだろうし、私にとって嬉しい答えになるわけもない。
決して明るくはない倉庫の中で、“彼”だけが網膜に強く焼き付く。
白鷹次郎自らが動いたことで、翔桜の男達の中には床に腰を落としてしまう者さえいた。
目を限界まで見開き、迫り来る脅威に怯えきっている彼らの瞳。
もう勢いなんてちっともないのに──これ以上、どうするっていうんだろう。
そして……翔桜の六人に対し“黒鷹”がなぜ、ここまでやる必要があるのか疑問だった。
うまく言えないけれど、この男達とジローさん達は、同じ線に並んでいないのに。
王様らしい、悠然とした歩みで距離を詰めていく。
私は……そんな王のオーラに触発されたのか、なぜか“黒い鷹”のもとに駆けだしていた。
何してるんだろう。
なんで余計なことをしてしまうんだろう。
バカじゃんって思うけど、自分自身にストップかけようとしたってどうにもならない。
ジローさんの行く手を阻むように、彼と翔桜の男達の間に立った。
もちろん、鷹に体を向けて。
私が割り込んでも、彼は眉一つ動かさない。
無感情な瞳で私を見下ろすだけ。
「……ジローさん」
なんて、綺麗なんだろう。
なんて、綺麗な人間がこの世にいるんだろう。
綺麗すぎて、怖いくらいだった。
それなのに、その瞳も心も真っ黒い霧に覆われ、他人の侵入を許そうとしない。
孤独な彼は……孤独を選ぶしかなかったかのように思えて、切なくなる。
「やめてください。やめましょう?……ね?」
私が言える立場じゃないのに。
言うべき言葉じゃないのに。
でも、彼を行かせちゃダメだ。
人に痛みと血を流させる拳を、握ってほしくない。
だって、私が好きなのは……彼の温もりをくれる手だから。
優しい手が、大好きだから。


