誰も何も、言葉を発することはない。
言葉はなくとも十分だった。
遠巻きに、“鷹”達が無数の視線で翔桜の男達を射竦めるだけで、彼らを精神的に追い詰めるには。
もう……終わったんだって思ってた。
私の中じゃ、あのカラオケ店を出た時点で翔桜のヤツらと会うことはもうないだろうって、勝手に思い込んでいた。
その時はとにかくショックが大きすぎて、自分自身のことしか考えられなかった。
それに引き続き、休む間もなく押し寄せる衝撃の連続で、翔桜のヤツらのことなんかとっくに頭になかったんだ。
ジローさん達のことでいっぱいだった。
“鷹”に招いてくれた、飛野さん。
私の人生初のお化粧を、『イタズラ描き』だと言って機嫌を悪くしたジローさん。
その後「俺に愛されてえのか」なんてセリフを難なく言っちゃう魔王ジローに変貌するもんだから、もうすぐで息の根止められるとこだった。
私に水をぶっかけてきたハイ……まりもっこり。きっちりお返ししたけど。
とにかく、私の頭は彼らのことでいっぱいいっぱいだったんだ。
だからタイガとハレルヤさんが翔桜の男達を連れてきたことに、頭が真っ白になる。
じわじわと忍び寄る不穏な影に、構えてしまうのも……当然のこと。
そして、最も私が恐れていたこと。
まさに蛇に睨まれた蛙状態の翔桜の六人。
倉庫内にいる人間だけで、百人弱。外にはまだ何十人か待機している。
完全にアウェイで、逃げ場なんてあるはずもない。
“鷹”の無言の圧力に、『逃げる』なんて案も浮かばないんじゃないかと思う。
「タイガ……」
何でだろう……なんで、タイガの名を呼んだんだろう。
意識せずに私は彼の名を口にしていた。タイガを見つめていた。
だって、あの時来てくれたのはタイガとハレルヤさんだったから。
ハレルヤさんは腕を組み、倉庫の鉄製の扉に寄りかかって刃のような眼光でただじっとこちらを窺っていた。
彼は唯一、“鷹”には混じることのないように思えた。
孤高の、金色の獅子。
そんな風に私には見えた。
触れれば引き裂かれそうなライオンに声をかけることもできず……というよりは、彼は蚊帳の外で見物という態勢を決め込んでいたから、今から始まろうとしている“何か”に加わるつもりはないみたいだった。
そうすると、必然的に頼れるのはタイガだけ。
送る眼差しも無意識に、縋りつくようなものになってたんだと思う。
「答えろ」
けれど、タイガは……私の視線に気づいているはずなのに……私に目を向けてくれることはなかった。
私の存在も見えないことにして、翔桜の男達に低い声を這わせる。
「バックに誰がついてる。てめえら、“蛇”のメンバーか」


