「ふ、ふふっ……」
下を向き、肩を小刻みに揺らして不気味な笑いを漏らす。
ハイジから「何だよお前、また始まったのかお得意の妄想が」と、ビビり気味の声が飛んできた。
それから。
元気よく顔を上げると、ハイジはビクッとなった。
あからさまに、私の頭がイカレてるとでも言いたげな目つきのハイジ。
「待て。タヌキの呪いだけはやめろよ!?そーいう類だけはやめてくれよ!?」
完全に私がオカルトに走ってると決めつけているハイジは、引け腰だった。
ヤツが怯んだスキに、私はヤツの手からペットボトルを奪い取る。
「おまっ……」
ハイジが目を見開いて制止しようとするのも構わず、ペットボトルの中でたぷんと揺れる残りの水を──
天井に顔を向け、一気に上から被った。
並々と顔に注がれる、冷たい水。
髪を潤し、肌を伝い、制服を濡らしながら全身に流れ落ちていく。
見ていた全員が、ぎょっとしているのがわかった。
それでも気持ちよくて、やめられなかった。
皮膚を這う水の感触に、体の細胞ひとつひとつが奮い立つようで、この身を委ねたかった。
わだかまりも、溜め込んだ思いも、この顔を飾る化粧すらも──全部流してしまいたかった。
ぽたりと最後の一滴が鼻の頭を滑り落ちた時……私はゆったりと、閉じていた瞼を持ち上げた。
今あるのは、爽快感だけ。
「あー、スッキリした!!」
暑い夜だから。
私の体を、透明で汚れのない水が冷やしてくれる。
鬱々していた気持ちを、洗い流してくれた。
髪の毛の先から、水滴が絶え間なく滴り落ちる。制服が肌に張りつく。
けれど、不快感はない。
自分でもちょっと大胆な行動に出たかな、とは思ったけれど。
後悔なんて一つもなく、むしろさっぱりして解放感に満たされた。
「……もも、お前つくづく読めねえ女だな」
額に張りついた前髪を掻き上げると、ハイジがどこか控えめに声をかけてきた。
本当に、理解できないというように。
そんなアイツに、私は空になったペットボトルを投げつけてやった。
一直線にハイジめがけて飛んでいくソレ。
見事にグリーンなアイツのおでこに、クリーンヒット。
「っ、何すんだてめえ!!」
予想通り、おでこを押さえながら噛みついてくるハイジに、返す言葉なんて決まってる。
「さっきのお返しよ、まりもっこり」
「!!」
毅然と、言ってやった。


