「……わかってるよ、そんなの……。私だってそれくらい、わかってる……」
でも、ちょっとでも近づけるかなって、思ったんだ。
ジローさんの隣にいた、あの綺麗な女の人に。
お化粧さえすれば、私も少しくらいはあの人みたいになれるのかなって。
そうしたら、ジローさんに見てもらえるかもって……淡い期待を持ってた。
結局、意味なんてなかった。
余計に惨めになるだけだったのに。
中身は何一つ、変わってないのに……何を変えたつもりでいたんだろう。
本当はそんなこと、望んでなかったのに。
その結果、沢山の人に心配と迷惑をかけて。
その上、みんなの前でこんな醜態を晒して……。
「ほんと、バカみたい……」
自然と唇から言葉が零れる。
そんな私を、ハイジは冷静な眼差しで見ていた。
「私、何やってんだろ……!」
情けなくて居たたまれなくなった。
自分を責めることしかできなくて、頭ん中ぐちゃぐちゃで。
何でもっと、しっかりできないんだろう。
何で私、ちゃんとできないんだろうって。
「……タヌキはどう足掻いたって豹や獅子にはなれねえ。タヌキのまんまだ。けどよ、それの何が悪い」
俯く私に、やけに静かで心地の良い声が届いた。
顔を上げると、ハイジがまっすぐ私を見つめていた。
「タヌキにだって、いいとこいっぱいあんだろ。腹叩けば音出せるし、化けられるし、食ったらうめえし。マヌケな体型に癒されんじゃねえか」
……いや、どれもフォローになってないし。
それいいとこなの?
疑わしげな視線を送ると、ハイジは何だか偉そうに見下ろしてきた。
「綺麗にこしたことはねえけどよ、美人は三日で飽きるって言うだろ?それよりいいかお前、女は愛嬌だ。癒しをくれる女を、男は愛すんだよ」
いつもの調子で、ハイジは偉そうなまま続けていく。
「目指すんならそーいう女を目指せ。たまには俺に、可愛らしく微笑んでみせろよ」
なんかもう最後らへんは、ツッコミどころ満載だったけれど。
ハイジは少しずつ、私のよく知るハイジに戻っていく。
だから安心したんだ。
安心して、私は『俺様節』をかますハイジを見つめていた。
ハイジはきっと、見抜いてたんだ。
私の間違った背伸びの仕方を。
焦って、大事なことを見落としてたことを。
ジローさんを好きなこと、ハイジは知ってるから。そしてあの女の人のことも。
だから叱ってくれた。
荒っぽいやり方だけど、私は私のままでいいって説いてくれた。
ちょっと引っかかるとこはあったけど。
その瞳を見ればわかる。
怒った顔をしてても、目の奥は柔らかいから。
私のためを思って言ってくれたんだって、伝わってきた。
そして何より、私を私だと認めてくれたことが嬉しかった。
飾った外見じゃなく、普段の“私”を知った上で──そっちの“私”の方がいいと言ってくれたことが。
嬉しかったんだ。本当に。


