気まぐれヒーロー2




「ご、ごめんなさい白鷹先輩、ごめんなさい……!!」



ジローさんの険しい顔と、冷酷な目。

その標的になってしまえば、怯えるのも当然だった。

朝美は唇を震わせながら、必死に謝罪の言葉を繰り返す。


それでも、ジローさんの足は止まらない。


──これ以上彼を行かせたらダメだ。


ジローさんの目が、自分を見失ってたから。

自分でも自分を、制御できてない。


「ジローさん!!」
「おい!!」


私の声と、ほぼ同時に重なった男性の声。


「正気になれバカヤロウが!!女に手ェあげる気か!!」


ジローさんの胸倉を掴んで引き寄せたのは、飛野さんだった。

その剣幕は凄まじく、この時ばかりは気の良いあんちゃんだなんて、とても思えなかった。


止めてはくれた。けれど対立する二人を前に、私は気が気じゃなくて、おろおろするしかない。

──その時。


「っ!」


前触れもなく、目の覚めるような刺激。

続いて、ひんやりとした感触が襲いかかった。


最初は何が起きたのか、わからなかった。

顔面が冷たく、しきりに肌を伝って水滴が落ちていく。


数秒遅れて、やっと気づいた。

水をかけられたんだ、と。



「何やってんだお前」



ドスのきいた低い声。

目をやれば、水の入ったペットボトルを手にしたハイジが立っていた。


たぶん、呆然としながらハイジを見る私の顔は、途轍もなくマヌケだったと思う。

緑のアイツは真顔で、私を見据えていた。


その手のペットボトルの中身は、ただの透明な水。カルピスじゃない。

ほんの、ほんの少しだけ『カルピスじゃなくて良かった』と思ってしまった。

だってカルピスだったらベタベタするし、アリとか寄ってきたら困るし。ジローさんに舐められたりしても困るし。

……って、そんなこと今はどうでもいい。


私、なんでコイツに水かけられたの?


「『何やってんだ』って……ソレ、私のセリフだと思うんだけど」


顎から滴り落ちる雫が、コンクリートの床に水玉模様を作っていく。


さっきまで別人のように恐ろしかった飛野さんも、ハイジの仰天行動に気を取られて表情を戻していた。

『今度は何なんだよ』とでも言いたそうな、顔だった。