「、ジローさ……」
唐突に変貌したジローさんに心細くなって、そっと彼を見上げた。
「っ……」
微かな息だけが口から漏れる。
声が声にならず、喉の奥で散ってしまった。
彼の──酷く苦しそうな表情に。
手が震えていたんだ。
ジローさんの、筋張った大きな手が。
震えているのは朝美に触れられた手だけで、その手を、彼はもう片方の手で強く握りしめ、震えを抑えていた。
息を荒げ、歯を食いしばって。
すごく辛そうで……見ている私にまで、その苦しみが伝わってくるかのようで息苦しくなった。
“ジローな……アイツ、女に対して根深いトラウマがあるんだ”
太郎さんが、あの日話してくれたこと。
ジローさんがなぜ、女の人を避けるのか。
原因は、わからないまま終わったけれど……思ったんだ。
たった少し手を触れられただけで、過剰ともいえる反応を見せた彼を目にして。
精神的なものだけじゃなく、もしかしたら……肉体的にも何かトラウマがあるんじゃないか、って。
触られるのが苦痛になるくらいのことを、されたんじゃないかって。
そうじゃなきゃ、こうはならない。
こんなにも……男の人が女の子を拒絶するわけがないんだ。
改めて知る、彼の傷の深さ。
癒えることのないトラウマ。
その目に帯びた、拭いきれない恨みや憎悪や怒り、悲しみ……あらゆる負の感情に。
私は尻込みしていた。
後ろ向きになっていた。
お兄ちゃんがそうしたように、私も彼を救ってあげたいと思った。
力になれるなら、なりたいと思った。
だけど……
私なんかの器で、受け止めてあげられるの?
ううん、その前に。そもそも、ジローさんは私を必要としてくれるの?
彼の傍に、いていいの……?
自問自答したって、答えなんか出るはずもないのに。何度も、何度も自分に問いかけていた。
ジローさんに直接聞く勇気もない私は……臆病だった。
静寂に染まる空間で、不意にジローさんが一歩、足を踏み出した。
床に座り込んでいる、朝美に向かって。


