気まぐれヒーロー2



私の視線のずっと先にいるジローさんが、動いた。


狼ではなく、“鷹”と呼ばれた彼が。


一歩、また一歩、ゆっくりこちらへ。


私は彼が纏う圧巻のオーラに気圧(けお)され、固まったまま直立していた。


銀色と黒色が溶け合うように彼を彩る。


やっぱり、身震いするほど綺麗で……なのに豪快な人。


もう目の前に迫るジローさんから視線を外せるはずもなく、完全に私は彼の獲物だった。

食べ……られるかどうかはともかく、覚悟はしなきゃならない。

何の覚悟かはわからないけれど。


そして、鷹の両手がスッと伸び、迷いなく私の肩を掴んだ。



「お前……」

「は、はひっ」



ああっ!へ、変な声出た!!カッコわるっ……!

とか思うよりも、その整ったお顔と魅惑の唇からどんな言葉が飛び出るのか、胃がキリキリする思いで待った。



“何でここにいるんだ”

“勝手に来るんじゃねえ”



そんな風に冷たくあしらわれたら──怖い。


彼に、いらないって思われるのが……たまらなく怖い。



「イタズラ描きされやがって!!」



ジローさんは、真顔でそう言った。


飛び出たジロー語にしばし考え込む。

……イタズラ描きって、何なんだろう。


私の顔、何か変なこと描いてあるの?

え、もしかして『バーカ』とか『アホでんねん』とかそんなこと描かれてたりするの!?ねえ、いつの間に!?


って思ったけど、私はジローさんのセリフが何を指しているのか気づいた。


「えっと……お化粧のこと、ですか?」

「ラクガキだろそれ。眉毛とか描かれやがって」


いや、もとから眉毛はあるんですけど。
なんて言い返せない。

王様である鷹に、言い返せるはずもなかった。




「あ、白鷹先輩!それはぁ、アサミがぁ──」



その時、横にいた朝美がジローさんに話しかけた。


話しかけながら……私の肩に置かれたジローさんの手に、彼女は“触れてしまった”。


瞬間、ジローさんの目の色が一変する。


──いけない。

朝美が、危ない。


止める暇も、考える余裕もなかった。

朝美の手が、ジローさんの手に重なった瞬間……

鷹の目は穏やかではなくなり、一瞬にして据わる。


内に秘めた凶暴性が顔をのぞかせる。

余りの気迫に、鳥肌が立つほどだった。




「──俺に触んじゃねえ!!!」




天井にまで届くような怒声。

朝美を振り払う、腕。


ジローさんの大声と予想もしなかった行動に、驚いたんだろう。

小さく悲鳴をあげ、朝美はよろめいて後ろに下がり、そのまま尻餅をついた。


広い空間を沈黙が支配する。
全員が物を言わず、重い空気に包まれた。